1496 難しい植物の名前 夕菅とヘメロカリス

画像
「われらが花を見るのは、植物学者以外は、この花の真目的を耽美するのではなくて、多くは、ただその表面に現れている美を賞観して楽しんでいるにすぎない。花に言わすれば、誠に迷惑至極と歎つ(かこつ)であろう。花のために、一掬の涙があってもよいではないか」

植物学者、牧野富太郎は『植物知識』(講談社学術文庫)の中で、こんなことを書いている。私も牧野が言うように、花には迷惑な、表面の美を楽しんでいる一人である。しかも花の名前もよくわからないままにである。そのことに散歩コースにことしも咲いた花を見つめて気がついた。これまで、夕菅と思っていた花がいま咲き誇っている。数年前に初めて見たころは少なかったのに、ことしはやけに株が増えている。旺盛な繁殖力があるのだろう。

その花を図鑑で見て「夕菅」と思い込んだ。俳句歳時記には「夕菅や叱られし日の懐かしく」(伊藤敬子)など、懐かしい思いにさせてくれる4句が載っている。だが先日、朝の散歩から帰って、インターネットで夕菅の画像を検索してみると、さっき見た花とは微妙に違うことに気が付いた。

様々なページを調べると、「ヘメロカリス・レモネード」というのが酷似していることが分かった。どう見ても、夕菅よりもこちらではないか。ヘメロカリス(ギリシア語の「一日」の「へメロ」と「美」の「カロス」)を合成)は、ユリ科ヘメロカリス (ワスレグサ) 属の総称で、長い花筒部がある。ユリに似た花をつける夏緑多年草で、日本や中国原産のユウスゲやカンゾウ類(ノカンゾウ、ヤブカンゾウなど)から品種改良で生まれたという。花が一日でしおれてしまうことから「デイリリー」とも呼ばれるそうだ。

夕菅なら、俳句や詩にしても格好はつく。しかしヘメロカリスでは俳句にならない。詩にしても名前だけで花を連想する人は、あまりいないはずだ。でも、この花を朝の散歩で見ると、なぜかこころが和むから不思議である。

雑草が生い茂る中、黄色い花は存在感をアピールする。ヘルマン・ヘッセは黄色い花についてこんな詩を書いている。黄色い花は毎朝、そっそかしくて、愚かな私の姿を見つめているのかもしれない。

小川のほとり
赤い行季柳のうしろに
この数日
数知れぬ黄色い花が
金色の眼を開いた。
そしてとうに純潔を失った私の
心の奥底で あの記憶が
私の人生の金色の朝の時間の記憶が目覚め
花の眼の中から私をまじまじと見つめる。
あのころ私は花を手折りにゆこうと思ったが
今は彼らをすべてそのままにして
ひとりの老いた男 私は家に帰る。
(『庭仕事の愉しみ』「はじめての花」より)

画像


関連ブログ

983 散歩コースに咲くユリ科の花 絶滅危惧種のユウスゲかあるいは?


1247 懐かしきは夕菅の花 季節の花に寄せて

この記事へのコメント