1929 文芸作品に見る少年たち 振り返る自分のあの時代

 最近、少年をテーマにした本を続けて読んだ。フィクションとノンフィクションに近いフィクション、ノンフィクションの3冊だ。読んだ順は馳星周『少年と犬』(文藝春秋)、高杉良『めぐみ園の夏』(新潮文庫)、佐藤優『十五の夏』(幻冬舎文庫)になる。それぞれの作品に出てくる少年の姿を想像しながら、遠くなった私自身の少年時代を振り返った。それにしても、佐藤優が15歳の高校1年生の夏に体験した東欧諸国一人旅は、私の想像を超えていた。

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1928 「いつも一緒にいてね」それぞれの愛犬との別れ

 《僕(私)の嫌なところに行くときは、お願いだから一緒にいてよ。見ているのが辛いとか、見えないところでやってとか、そういうことは言わないでよ。そばにいてくれるだけでいろんなこと、頑張れるようになるんだ。愛してるよ。それを忘れないでね。》『少年と犬』(文藝春秋)で直木賞を受賞したのと同様、馳星周の犬をテーマにした『ソウルメイト』(集英社)には、物語に入る前に「犬の十戒」という英語の詩と馳の日本語訳が載っている。冒頭に紹介したのはその10番目である。

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1927「本の表紙を変えただけでは」 理想の政治家像とは

 「本の表紙だけを変えても、中身が変わらなければ駄目だ」。自民党の総裁選のニュースを見ていたら、こう言って、総理大臣(首相)になるのを固辞した政治家がいたことを思い出した。私は政治家は嫌いだ。だが、当時この政治家の気骨ある姿勢に驚き、自民党にもこんな人物がいるのだと感心した。時代は変わって、今こうした政治家の存在を知らない。

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1926 学べき悔恨の歴史 秘密文書に見るユダヤ人問題

 前回のブログで、ナチス・ドイツの強制収容所アウシュヴィッツにあったオーケストラのことを書きました。引き続きこれに関連したことを記したいと思います。太平洋戦争中、日本政府が人口・民族政策に関する研究を行い、秘密文書をまとめていたことはあまり知られていません。この研究ではユダヤ人問題でナチスの政策を追認していたのです。この文書の存在が明らかになったのは戦後36年経た1981(昭和56)年のことでした。あれから39年の歳月が経ているのですが、地球上から差別問題は依然消えていません。

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1925 アウシュヴィッツのオーケストラ 生き延びるための雲の糸

「人間の苦悩に語りかけ、悲しみを慰め、それをいやすよう働きかける力こそ、音楽のもつ最高の性質の一つだと信じる」。音楽評論家の吉田秀和は、『音楽の光と翳(かげ)』(中公文庫)で音楽の力について書いている。第2次大戦下、死が日常化したナチスの強制収容所でも音楽が流れ続けた。収容所で編成された女性オーケストラのメンバーによる本を読み、この本を原作にした同名の映画を見た。死の淵に立った彼女らにとって、音楽は生き延びるための雲の糸のような存在だった。戦後75年。世界各地の独裁国家には、憎むべき強制収容所が今も残っている。  

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1924 秋風とともに第2波去るか シューベルトの歌曲を聴きながら

 新型コロナの感染拡大が止まらない。9月1日午後1時(日本時間)現在、世界の感染者は2540万5845人、死者は84万9389人(米・ジョンズ・ホプキンズ大まとめ)に達している。悔しいことだが、死者が100万人を超える日はそう遠くはないはずだ。コロナ禍の中で生活をしていると、人類の健康で文化的生活には災害や飢餓、戦争に加え、伝染病(感染症)が大きく立ちはだかっていることを強く感じるのは、私だけではないだろう。フランツ・シューベルト(1797~1828)の歌曲『死と乙女』(1817年作曲)の詩(マティアス・クラウディウス作)のように、死神がいるとしたら、新型コロナというウィルスを使って乙女に限らず多くの人々を死へとおびき寄せようとしているといっていい。

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1923 刀折れ矢尽きた首相 現代の政治家が失ったこと

 本来なら有終の美を来年の東京五輪で飾るはずだった。だが、安倍首相は28日、辞任を表明した。持病の難病、潰瘍性大腸炎が再発したためだ。あと1年の任期を残しての辞任は、刀折れ矢尽きる状態といえるようだ。病によって精魂ともに尽き、政治のリーダーを続ける意欲がなくなったのだろう。(それほど懸命に政治に取り組んだとは思えない。取り巻きの官僚の言いなりになったにすぎないのではないか、裸の王様だった、という声も聞こえてくる)安倍政権の功罪は様々だ。私から見たら罪の方が大きい(うそが多かった)のだが、野党に力がないから次のリーダーも自民党の誰かがなるだろう。その条件は?

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1922 早朝の二重(ふたえ)虹 天まで続く七色の階段

「こんな美しい虹を見たのは初めて」「二重の虹はなかなか見られないよね」。朝6時前、雨上がりの北西の空に虹が出ているのを見た。しかも二重の虹である。散歩を楽しむ人たちは、束の間の自然界のパノラマに見入っている。何かいいことがありそうな、そんな自然界からの朝の贈り物だった。

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1921 金に頼る政治家たちへ 寅さんの怒りの口上が聞こえる

「天に軌道があるごとく、人はそれぞれ自分の運命というものを持っております。とかく気合いだけの政治家はうわべはいいが、中身はない。金を使えば何でもできると思っていたら、そりゃあ、間違いだよ。な、そうだろう」。暑い日々、家に籠ってぼんやりと新聞の川柳を読んでいたら、映画『男はつらいよ』の、寅さんの切れ味のいい口上が聞こえるような気がしてきた。そうか、金に頼って不正が発覚した政治家たちをいまいましく思って、寅さんは声を掛けてきたのだ。先月も寅さんに怒られる夢を見た。最近、どうやら天国の寅さんは地上の人間たちの行状にイライラしているのもしれない。                

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1920 旭川を愛し続けた人 少し長い墓碑銘 

「せきれいの翔(かけ)りしあとの透明感 柴崎千鶴子」 せきれいは秋の季語で、水辺でよく見かける小鳥である。8月も残りわずか。暑さが和らぐころとされる二十四節気の「処暑」が過ぎ、朝夕、吹く風が涼しく感じるようになった。晩夏である。遊歩道に立つと、写真のような透明感のある風景が広がっている。空には今日も雲がない。そんな空を見上げながら、北の地に住んでいた先輩の旅立ちを偲んだ。

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