94 春の彼岸 マンサクの花と

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春の彼岸に入ったというのに、肌寒い日が続いている。「暑さ寒さも彼岸まで」というが、あたたかな1、2月を経験すると、3月は寒く感じる日が多かった。春は足踏み状態だとしてもすぐそこまで来ているのは間違いない。

彼岸の入りだというので、花と線香を持って家族で墓参りに行く。霊園の事務所には線香をつけるバーナーが置いてあった。風が強くて、なかなか火がつかない。

小さな霊園は、本来の縦型の墓石と最近流行の横型の西洋式の墓石が整然と区画に分かれている。これが最近の霊園の姿である。西洋式はそれぞれ好きな言葉を正面に書いてある。「花」「愛」「真実」「誠実」と様々だ。花をたむけ、線香をあげ、両親や祖母にあいさつする。

脳裏に故郷の墓参りが蘇ってきた。家族で新聞紙と一升瓶に入れた水と線香を持って、山の中にある先祖代々の墓に行くのは、お正月、春、秋の彼岸とお盆くらいだ。春の彼岸のころには、近くの山には、マンサクの黄色い花が咲いている。遠くからウグイスの鳴き声がする。


坂道を上り、墓に手を合わせると、家に向かって私は一目散に駆け出す。後ろからは「転んだら、片方の手を取って墓に置いていくよ」という母の声が聞こえる。そんな言い伝えがあったのだろうか。たぶんに、転ばせまいとして、母が注意したに違いない。

家に帰ると、必ず「ぼた餅」(おはぎ)を食べる。それが楽しみで駆け足になったのかもしれない。そんな少年時代だった。

近所にあるマンサクの花は、もうとっくに咲き終えた。しかし、ウグイスの美しい鳴き声はきょうも聞こえる。空を見る。遠い故郷を思う。束の間、室生犀星の詩が頭に浮かぶ。

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