1466 犬が眠る場所 あれから3回目の桜 

わが家の飼い犬、ゴールデンレトリーバーのhanaが死んだのは2013年7月30日だった。その遺骨は庭の金木犀の根近くに埋めてある。家族で居間からよく見える場所として選んだのだが、いまになって思うと一冊の本の内容が深層心理に働いたのかもしれない。それは宮本輝の『彗星物語』(角川文庫)だった。hanaは、「うちの飼い主は主体性がない」と、笑っているかもしれない。 宮本の作品は、大阪と神戸の中間にある伊丹(大阪府)が舞台。核家族化が常態化し、日本では大家族は少なくなったが、登場する家族はハンガリーからの留学生も入れると全部で13人という大家族である。物語は留学生を受け入れた家族と一匹のビーグル犬が織り成す悲喜劇である。自分を犬と思っていないビーグル犬が見事に主役を演じている。ビーグル犬は、物語の終わりに死んでしまい、庭の金木犀の根元に埋められる。 この本を読んだのは1992年7月だから、24年前のことになる。本の存在、内容を完全に忘れてしまっていた。最近たまたま当時のメモを読み返して、この作品のことを思い出した。本を読んで20年後、同じように私も飼い犬の遺骨を金木犀の根元に埋めた。 作家の中野孝次は飼い犬の亡骸を庭のザクロの木の根元に埋め(『ハラスのいた日々』・文春文庫)、山崎豊子は椎の木の下に葬った(『いつも犬と一緒に』「ヒルセンの死」・新潮文庫)。中野の庭には「HARRAS(1972.6.10-1985.5.15)」とドイツ文字で彫られた墓石があるという。私はそうした目印は何も置い…

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1299 hana物語(41)最終回 つぶやき18

「子宮の緊急手術 hanaのつぶやき」 ことしも残すところあと5日です。そんな暮れの夜、「お父」は安倍内閣誕生のニュースにずうっと見入っていました。そして、「お父」は「日本はいい方向へ変わることができるのかなあ」とつぶやいていました。 私は、10歳5ヵ月になりました。このところ体の調子が悪い日が続き、歩くときには足を引きずり、食欲も極端になくなりました。私の変調を心配した「お父」とママが動物病院に連れて行ってくれたのは、おととい(12月28日)の夕方でした。病院はおじいちゃん先生が引退し、若い先生が代わりにやっています。背の高い先生は検査のあと「すぐに手術をやります」と難しい顔で話していました。 どんな検査だったか分かりますか。それは血液検査とエコーの検査というものでした。私の足から注射器で血を取った血液検査では、白血球の数値が異常に高かったそうです。先生は「どこかが出血しているようです」と家族に説明していました。 腹の部分のエコー検査では、子宮の一部が風船のように膨れているのが見えたそうです。先生は「子宮蓄膿症に間違いありません。このままだと危険なので、今夜手術をしましょう」と家族に通告しました。 先生は、本を持ってきてこの病気のことを詳しく説明していました。それは、だいたいこんなことだったようです。 《犬の子宮蓄膿症は避妊手術を受けていない中高年齢期の雌がかかる病気で、大腸菌などの細菌が膣から子宮内に侵入して異常繁殖、炎症がひどくなって化膿し、子宮内に膿がた…

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1298 hana物語(40) つぶやき17

「お父」の愚痴を聞く hanaのつぶやき」きょうは、12月にしては久しぶりに暖かい一日でした。居間の窓際で昼寝をしていると、やわらかい日差しが私の体を包んでくれるようで、気持ちのいい時間を送ることができました。私の横のソファーでは、この冬2回目の風邪をひいたという「お父」がごろごろしていました。 ママとちーちゃんが買い物に出かけてしまうと、「お父」は一人で選挙に出かけ、帰ってくるとぼんやりと何かを考えている様子でした。私には何を考えているのか分かりませんが、普段の休みの日よりは難しい顔をしていました。   私はこの7月で10歳になり、老犬の仲間入りをしました。歩くペースは昔よりも遅く、寝ている時間も多くなりました。でも、食欲は以前と全く変わりません。先月は動物病院で前の検診の時よりも体重が増えたといわれ、大好物の果物をあまりもらえなくなってしまいました。私はすぐに太る体質らしく、少し油断すると動物病院の先生から家族が注意されるのです。残念でたまりません。 風邪で寝込んだため、この2日間、「お父」は散歩に付き合ってくれませんでした。それが心配で、朝の散歩は気が進まず、私もぐずぐずしていていましたが、何とか選挙に行ったのですから、明日からは大丈夫だと安心しています。難しいことは分かりませんが、「お父」は選挙の投票から帰って、こんなことを話していました。 「今回の選挙は困ったよ。これぞという人がいないし、信用できる政党もない。社会人になってから棄権をしたことはないが、今度の選挙ほど…

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1297 hana物語(39) つぶやき16

「ついに絵のモデルに hanaのつぶやき」 「一芸に秀でる者は多芸に通ずということわざがある。ある分野を極めた人は他の分野でも優れた才能を発揮することができるという意味だよ」。 旅行先から、大きな荷物を持って帰ってきた「お父」が、その荷物をほどきながら、こんなことを言っていました。ひもとビニールを外すと、写真のような絵が出てきました。私を描いたものだそうです。絵を見ながら「お父」は、こんなことわざを話してくれたのです。 その絵は「お父」の友だちが描いてくれたものです。ついに私も絵のモデルになったのですよ。絵を見て変な気持がして、ついワンとほえてしまいました。 6年前、4歳の私はようやく暑い夏が終わってのんびりと2階から外を見ていました。それを家族が後ろから撮影してくれたのです。その写真が「お父」の「小径を行く」というブログに掲載されたのです。 あのころ、私は元気いっぱいでした。あれからいろいろなことがありました。家族の中に女の子が増えたのは去年1月で、その後3月には大地震があって恐ろしいことが起きました。1年が過ぎて女の子はもう歩き出しています。遊びに来ると平気で私に触り、おもちゃみたいに扱います。最初のころは嫌でしたが、いまはもう慣れてしまって遊びに来てくれるのが楽しみになりました。 絵を描いてくれた、「お父」の友だちは中国に住んでいたことがあるそうです。中国では書道を習っていて、日本の文部科学省のような仕事をしている中国科学院が主催した書道展でも入選したそう…

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1296 hana物語(38) つぶやき15

「楽しいことや悲しいこと hanaのつぶやき」 私は、この夏で9歳になったハナです。もう9回の夏を過ごしてしまいました。それにしてもことしはいろいろなことがありました。楽しいこと、つらいこと、悲しいことが重なりました。長い間一緒にいて、あんなにつらそうな家族の顔を見たのは初めてでした。 楽しいことは、私の一番大事なみーちゃんが、1月に女の赤ちゃんを産んだことです。産んだ後、ミニチュアダックスフンドのノンちゃんと、4カ月も一緒に過ごすことができました。私は犬族にはあまり関心がないのですが、ノンちゃんはいつも私にまとわりついてくるので、いつの間にか妹のような感じを持ちました。 つらかったのは大きな地震の時のことです。あの日、家族はみんな出かけていて、家にいたのはみーちゃんと赤ちゃん、それに私とノンちゃんでした。みーちゃんは赤ちゃんを抱え、あちこちに電話を掛け続けていました。でも、ほとんどつながらなかったみたいで、その夜は人間2人と私とノンちゃんで眠れない時間を送りました。 余震が続いて、みんな眠るどころではなかったのです。あの夜の、みーちゃんのつらそうな顔を今も忘れることができません。 悲しいこともありました。散歩の途中に見かける仲間が姿を消してしまったのです。ラブラドールレトリーバーのシオンさんは、病気と闘い、一時は奇跡的に持ち直したのですが、地震の後に亡くなったと聞きました。体調を壊して、歩くのがやっとという状態でしたのに、一番好きなお姉さんが産んだ赤ちゃんに対抗意識…

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1295 hana物語(37) つぶやき14

「老犬でも想像妊娠 私の日記から」 人間の世界では「想像妊娠」という言葉がある。実際には妊娠していないのに、妊娠したのと同じような兆候が現れる現象だ。それが犬の場合にも発生することがあることを、わが家のhanaが証明した。8歳半の老犬の範疇に入りつつある犬でも、こうした現象が起きることに生命の不可思議さを感じた。 昨晩のことだ。次女がhanaの体をさわっているうち、乳の周辺の毛が黄色くなっていることに気付いた。犬には「乳腺腫病」という乳腺にしこりができる病気がある。心配になった私と妻はきょう雪の中を、いつもの「おじいちゃん先生」がやっている動物病院にhanaを連れて行った。 病院の待合室で、hanaは体を私にぴったり寄せながらガタガタと震えている。嫌いな診察台(高さ約1メートル)に乗せられることを怖がっているからだ。順番が回ってきて待合室から隣の診察室に入るのも一苦労だった。 座り込んで嫌がるのを抱きかかえるが、28キロ近い体重なのだからそう簡単ではない。ようやく診察室に入れ、彼女の嫌いな診察台に無理に抱きかかえて乗せ、診察を受けた。 触診の結果、乳腺腫病の疑いはほぼないという。最近の環境をおじいちゃん先生に話す。さちが子どもを産んで、退院後わが家で生活し、飼っていた犬(ミニュチュアダックスフント)もやってきて、一緒に暮らしていることなどである。 話を聞いたおじいちゃん先生は「ホルモンのバランスが崩れ、母乳が出たのでしょう」と説明してくれた。これまでの生活環境の変化…

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1294 hana物語(36) つぶやき13

「いたずらをやりました hanaのつぶやき」 ことしもきょうで終わり、2011年が近づく足音が聞こえてくるようです。私は8歳半になりました。夕方の散歩のとき、だれもいない広場で「お父」がリードをはずしてくれたので、思い切り走ってみました。近くに落ちていた野球のボールを「お父」が遠くに投げ、それを追いかけたのです。 私は一生懸命でしたが、家に帰った「お父」は家族に「ハナの足が遅くなったよ」と報告していました。それほどでもないと私は思うのですが、「お父」から見ればやはり走る速度は以前よりも落ちているのかもしれません。  今月、私はあるいたずらをしてしまいました。家族の留守中に居間の隣の和室に入り込んで、そこにあったチョコレートやクッキーを残らず食べてしまったのです。家族が大事にしていて、お正月に食べようととっておいた物だったようです。 このいたずらに対し家族は怒るよりもあきれたみたいでした。それよりも「ハナは、家族がそろっているときに、自分だけ家で留守番をさせられると、腹いせに悪い事をやるのではないか」とみんなが話していました。過去のいたずらを思い出してそう分析をしたようです。 私はそれが当たっているかどうかは分かりませんが、歳をとるにつれてだれもいない家で留守番をするのがつらくなってしまい、本能的に食べ物を探して食べようとするのです。  以前も台所のキャベツを半分食べてしまったことがあります。「私を忘れないで」という強い思いが、いたずらに走ってしまう原因なのかもしれません。 …

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1293 hana物語(35) つぶやき12

「ドライブ中の出来事 hanaのつぶやき」 私は小さいころから車に乗るのが大好きでした。これまでは夏でも車に乗せてもらうのが普通でしたが、暑くてたまらないことしの夏は、家族はあまり車に乗せてくれません。 だから、みんなが出かけるときには、大騒ぎをして走り回って「私も乗りたい」と態度で示すのです。すると、たまには乗せてくれます。日曜日もそれがうまく行って遠出をしたのですが、途中で具合が悪くなってしまいました。 車は新しくて、エアコンもよく効いているはずでした。でも、後部座席に乗った私には暑くてたまらず、ついハアハアと荒い息を吐きました。ふだんなら私は大喜びで車に飛び乗り、開いた窓から外を見て、思い切り新しい空気を吸ってから足を長く延ばして、寝入ってしまうのが癖なのです。でも、この日は違いました。 「お父」は高速道路を下りて、山道に入ると慌てて車を止めました。一緒に車に乗っていた家族が私を外に連れ出してくれました。私は息苦しさから逃れ、その辺の雑草の葉を手当たり次第に口に入れました。何となくお腹の調子がおかしいのです。「お父」も心配になったのか、車から降りて私の様子を見ていました。少しだけおしっこをして動き回っていると、落ち着いてきました。 それを見計らい、家族は再び車に乗って目的の「道の駅」に向かいました。そこは成田空港に隣接した千葉県多古町にあり、人気のある道の駅だそうです。たしかに、多くの人でにぎわっていました。お腹の調子がおかしい私は、車を降りて、すぐにウンチをしてし…

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1292 hana物語(34) つぶやき11

「いい加減な飼い主のこと hanaのつぶやき」2月もあと1週間で終わりです。人間には寒い季節でしょうが、私のような犬には、夏に比べたらすごしやすい方です。きょうは、私の家で一番いい加減な「お父」の話をします。きょうの出来事です。 夜、「お父」を迎えにちーちゃんが駅まで行きました。駅の階段で足が肉離れになったという電話で、ちーちゃんが車で向かったのです。駅にだれかを迎えに行く時には私も一緒に行くのですが、きょうはダメと断られました。  間もなく「お父」とちーちゃんが帰ってきました。ちーちゃんはげらげら笑っています。私は耳を立てて、ちーちゃんがママに報告するのを聞いていました。 「お父は私の車の前に止まった車に近づいて乗り込もうとドアに手をかけたんだよ。そしたら、後ろにいたおじさんに、違う、違うと注意されたんだ。なぜだか分かるかな。その人の車だったのさ。その車はうちのと同じ車種、色も一緒だったんだよ。でも、間違うかなあ…。ナンバーを見ればすぐに違うと気付いたのに」 そんな話でした。そういえば、最近、私の家では新しい車になりました。私は車が大好きなのですが、新しい車のにおいをかいだだけで乗るのが嫌になりました。新しい家の木の香りなら、私だって好きなのですが。 なぜ、いつもは慎重な「お父」が車を間違ったのでしょうか。会合があって、少しアルコールが入っていたようです。でも、目の方はまだ自慢するぐらいいいと聞いています。「お父」は、みんなに笑われて、言い訳をしていました。  「迎え…

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1291 hana物語(33) つぶやき10

「犬の事故の話 私の日記から(第1章と重複しますが、当時の心境はこんな感じでした)」 わが家の犬が爪楊枝を飲み込んで大騒ぎをしたことは、hanaの独り言の通りだ。実は、こうした犬にまつわる「事故」はそう珍しいことではないようだ。わが家の話を聞いた家族の友人(Aさん)が、こんなことがあったと連絡してきた。それは感動的であり、そして不思議なストーリーだった。 Aさんの家でのことである。ある日、Aさんの妻が祖父母のためにと買ってきた約10センチの串に刺さっただんご2本をだれも知らないうちに犬(ラブラドールレトリーバー)が食べてしまった。だんごがないことに気付いたAさん家族は慌てて近所の動物病院に駆け込み、お医者さんに開腹手術をしてもらった。だが、串は発見できず、お医者さんは「本当に食べたのかなあ」と疑う始末だったという。 串が見つからなかったため手術代はおまけしてくれたが、腹を切られた犬はそのまま病院に入院した。退院後も首にカラーを巻いて不自由な生活が続いた。その後、3週間がたった。Aさんの祖父が急死した。自宅から出棺したあと、急に犬がはしゃぎ出し、せき込んだ。その直後、何と犬の口から串2本が出てきたのだ。食道か胃の周辺に残っていたのかもしれないが、開腹した際はうまく見つからなかったのだ。Aさんが行った動物病院では内視鏡がなかったため、緊急事態だとして手術をしたという。 Aさんは、内視鏡のある病院ならばもっと早く見つけることができたはずと反省するとともに「亡き祖父が吐き出させ…

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1290 hana物語(32) つぶやき9

「飼い主の愛情が一番のごちそう hanaのつぶやき」 私の主治医は、おじいちゃん先生です。ふだんは苦虫をかみつぶしたような、愛想のない顔をしています。私はつい最近7歳になりました。優しい家族の家に飼われていますが、夏の暑さには参ってしまい、このおじいちゃん先生に時々お世話になるのです。 先日、家族と一緒に先生のところに行きました。フィラリアの薬をもらうのと定期健診です。その前に体調を崩して駆け込んだばかりでしたので、先生はまたかという顔をしていました。私が診察台に上がるのを嫌がると、いつもは手伝うことはしないのに、今度は後ろに回って、手伝ってくれました。 体重は26キロくらいなので、同じ仲間に比べるとそう大きくはないのですが、私を持ち上げるのは人間でも簡単ではないのです。診察台に上げてもらうと、いつもは「この犬は大丈夫ですか。かみついたりはしませんか」と聞くのですが、そんな質問はなく、優しく私の体を撫でてくれるではありませんか。 私は大人しくしていました。すると、先生も難しそうな顔をほころばせて、家族に言うのです。「この子にとっては、飼い主さんの愛情が一番のごちそうなのです」。いろいろな物を食べさせたりするよりも、愛情を持って優しく接することが大事ですよということなのでしょうか。 診察台の上で、私は泣きたいくらいうれしくなりました。私の思っていることを先生は見事に代弁してくれたのです。私の家族はふだんから先生の言うよう接してくれていますが、こんなことを言う先生はこの日…

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1289 hana物語(31) つぶやき8

「連休のわが家は hanaのつぶやき」 世間ではゴールデンウイークという連続した休みが続いています。ふだん家にいない「お父」がこのところ、毎日私の相手をしてくれます。朝だけでなく夕方の散歩も付き合ってくれますが、夕方はやや苦痛です。 ママは、私の言うことを何でも聞いてくれるので散歩も楽しいのですが、「お父」はそれを許さず、私が行きたい方向に向かうとするとすごい力でリードを引っ張るのです。 でも、きのうは楽しい一日を送ることができました。「お父」の運転する車で茨城県の笠間市まで行ったからです。私は車に乗るのがうれしくてしようがないのです。後ろの座席に乗って、窓から体半分を出して、外を見るのが癖になっています。「お父」は「暴走族みたいだ。やめなさい」と注意しますが、なかなかやめられません。 この日は、ママとちーちゃんが一緒でした。笠間は焼き物の街です。毎年連休に陶炎祭という焼き物市が、市の郊外にある芸術の森公園で開かれているのです。ことしで28回目だと「お父」はママに話していました。私の家族はこの祭りに最初のころからほとんど行っているそうです。6歳の私もこの祭りに行くのは5回目になります。 公園のイベント広場が会場なのですが、陶器を売る店が年々増えています。買い物客も多くなりました。人でごった返す会場に私も一緒に行くのですが、リードを持つのは「お父」です。ふだん、こんな大勢の人を見たことがない私は、つい興奮して「お父」を引っ張るように歩きます。 「お父」は私の力に負けな…

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1288 hana物語(30) つぶやき7

「ああ!いい季節だ hanaのつぶやき(hana6歳)」  12月になって、私の体調はすこぶる(こんな表現は古いでしょうか)順調なのです。暑い夏に比べたら、いまは極楽です。私が一番多く時間を送っているのは居間なのですが、この一角にあるストーブからは暖かい風が流れてきています。そんな部屋にいると、すぐに眠くなって、ソファーに上がって横になってしまうのです。 けさも、暗いうちに起こされました。毎朝の散歩なのですが、眠いので、ついサボろうとさえ思うのです。「お父」がテレビで見ていてつぶやいていましたが、きょうの日の出は6時半ということでした。だから、散歩の出発時間はまだ暗いのです。 それからしばらくして、太陽が出てきます。けさは散歩コースにある調整池には霧が立ち込めていました。その背後にある雑木林は見事な紅葉に染まっています。きょうは体調がいいのですが、つい先日大失敗をしてしまいました。 だれもいない家で留守番をしているときに、家の中を探検しました。 居間と台所の間にはアコーデオンカーテンがあり、閉まっていましたが、鼻の頭を使ってちょっと押してみたら開くではありませんか。それでつい台所に入ってしまいました。いつもここに入ろうとすると「ノー」ときつく言われますので、興味があっても我慢していました。 でも、だれもいないので、入り込むと私の大好物のサツマイモがあったのです。つい袋から足を使って取り出し、食べてみましたが、あまりおいしくはありません。生だったのです。これまで時々もらっ…

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1287 hana物語(29) つぶやき6

「この季節は散歩もいや 私の日記から」  このところ、hanaは散歩を嫌がる。朝も夕方も散歩に連れ出そうとすると、横になって寝たふりをするのである。この暑さに参り、エアコンの効いた部屋の方が楽だと、動物的勘が働くのだろうか。 仕方なく、リードを引っ張り、無理やり散歩に連れ出す。途中までは、帰りたがって、座り込んだりする。その力は強く、私がいない夕方の散歩に家族はかなり難渋するらしい。私は、座り込んだときには「ストレート、ゴー」と低い声で言う。ハナの目はもちろん見ない。すると、彼女はすうーと立って、すたすたと歩き出す。 ことしの夏は猛烈な暑さが続いている。人間の私たちが参っているのだから、毛皮を着た犬族にはそれ以上の厳しい毎日なのだと思われる。しかも、ゴールデンレトリーバーは毛が長い。昨年は、サマーカットと称して、その長い毛を切ったので、比較的涼しく夏を送ったようだ。 家族は、昨年のカットしたhanaの姿を覚えていて「不格好だから、ことしはやめよう」と言い出した。そのために、この夏のハナは文字通り厚い毛皮姿で毎日を送っている。夜中にはあはあという苦しげな息づかいを聞くと、大丈夫かと心配になる。そんな日々が続いているのだ。 地球の温暖化現象は、私たち人類の生活に由来して起きたことは間違いない。しかし、いま地球上では、先進国と途上国の国民はあまりにも異なる生活を送り、途上国には地球温暖化へ配慮する余裕はない。 とすれば、繁栄を享受した先進国側が途上国を巻き込んで、その対策…

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1286 hana物語(28) つぶやき5

「車は最高 hanaのつぶやき」  人間の世界ではゴールデンウイークという休みの連続する日々が終わりました。この間、いつもならママと昼の時間を送っている私ですが、「お父」やお姉さんたちが家にいることが多く、私にとっては休日ではありませんでした。 いつもなら、みんなを送り出したあと、私はママの掃除の前に昼寝の時間に入ります。おなかがいっぱいで、とても眠くなるからです。ところが、ここのところはそうした時間にみんなの相手をするので、寝るどころではなかったのです。 ところで、私は車に乗るのが大好きです。休みの間は「お父」とママは出かける度に私を連れて行ってくれました。ですから、よけい昼寝ができなかったのです。でも、いまの季節が私は大好きなのです。いろいろな花が次々に咲くからです。 ドイツスズランという花が庭にあります。日本のスズランの花は白いはずです。でも、これは薄いピンク色をしています。去年、短いヨーロッパ旅行をした「お父」は、ドイツの景色が気に入ったらしく、ホームセンターでこの花を見つけると、すぐに買い求めました。でも、去年は花が咲かなかったのです。初めて割いたピンクの可憐な花に「お父」は感動した様子で、うれしそうな顔でこの花を見ていました。 私の散歩コースの一部に仲間のゴールデンレトリーバーを何匹も飼っている家があり、そこにはブッラクベリーがたくさんあります。お姉さんたちがここのゴールデンたちに吠えられながら足を止めてこの花を見つめているのを「お父」から聞いたママが買ってき…

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1285 hana物語(27) つぶやき4

「私じゃないよ hanaのつぶやき」  私にとって、迷惑なことがありました。そのためについ、「お父」とママに文句を言ってしまいました。つい先日の夜のことです。リビングの一角にあるゴミ箱のゴミがあふれ、近くに少し散らばっていました。 隣の和室で何かをしていた「お父」が戻ってきて、ママに言いました。「おーい、ハナがいたずらをしたぞ。ゴミが散らばっているよ」。  そこには、ティッシュやチラシの丸まったものがありました。でも私は何もやっていません。たまには、いたずらをしたくなりますが、そんなことをしたらママが悲しみますので、できるだけ我慢するようにしています。 それなのに、「お父」ときたら、私がいたずらをしたと思い込み、ママにまで伝えたのです。ふだん、私はあまり吠えることはしません。なぜかといえば、この家の末っ子だと思っているからです。 でも、「お父」の早合点につい、腹が立ちました。それでつい、「ウー!ワー」とうなり、「お父」をにらみました。次ににいるママの所まで行き、「ゥワン!」と訴えたのです。 それに気がついたママは「あれは私が投げたゴミなの。ハナは何もしていないのよ」と言ってくれました。そした、「お父」は「エー」と言い、私を呼んで「ごめんね」と謝ってくれました。 それで私の気持ちは落ち着きました。でも、濡れ衣は嫌だと思います。濡れ衣という言葉はどんな意味かといいますと、無実の罪を着せられるということだそうです。 そんなわけで、この数日は、「お父」もママも優しく…

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1284 hana物語(26) つぶやき3

「寂しさのあまり hanaのつぶやき」 このところ、昼間私はいつも孤独です。この家で一番私の面倒をみてくれるママの姿が見えないからです。一軒家で留守番をするのは、ママが習い事に出かける週1回だけでした。それなのに、今週はママの姿はずうっと見かけません。夜になると、仕事を終えて帰ってくる私の妹分のちーちゃんもいないのです。さびしくて、さびしくてたまりません。 週の初めの朝早く、2人は「お父」の車で出かけていきました。私は開いていた玄関から飛び出し、車に乗ろうとしましたが、「お父」に抱き上げられて家に戻されてしまいました。それから、2人はいないのです。「お父」は間もなく戻ってきましたから、2人はどこかに旅行に行ったのでしょう。 その日から、私は毎日留守番です。朝早く太陽が出ない前に起こされ、「お父」と暗いうちからお散歩に行きます。家に帰ると、もう1人いるおねえちゃんのみーちゃんは仕事に行ってしまいます。「お父」も最近は仕事を再開したようで、みーちゃんの後から出かけて行き、8時半から私は一人ぼっちなのです。 3日間はさびしさを我慢しました。でも4日目もう我慢ができなくなってしまいました。夕方、吐き気を催し、ちょっとだけ吐いてしまいました。するとお腹の調子までおかしくなりました。我慢しましたが、だめでした。 リビングのカーテンを何とか開けて外に出られないかどうか見てみましたが、窓にはもちろん鍵がかかっています。我慢の限界でした。窓際のカーペットに粗相をしてしまいました。こんなこと…

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1283 hana物語(25) つぶやき2

「雨の散歩はいや」  このところ、秋雨前線の影響で雨の日が多く、散歩をする人や犬の姿は少ない。けさも6時に起き外を見たら、雨が降っている。散歩はどうするかと思っていたら、家のhanaが起きてきて私に擦り寄り、しきりに甘える。 これは散歩をねだるときの仕草なのだ。さて、どうするか。hana用のレインコートを着せるとするか。不思議なことに、コートを着るとき彼女はおとなしくしている。たぶん、コートを着れば散歩に連れていってもらえると思い込んでいるらしいのだ。 犬にレインコートなんて、過保護と思われる方がいるかもしれない。しかし、家の中で飼っているので雨の散歩後は体が汚れてしまい、洗うのが大変だ。コートを着せれば、洗う部分が少なくて済むので、助かるのだ。 さて、きょうのhanaは、いそいそと外へ出て、排泄を早々に済ませた。その後、もう帰りたいというように、遊歩道に座り込んでしまった。雨は犬にとっても気分がよくないらしいのだ。それでも、私に促されて歩き出したが、遊歩道には天気のいい日のような散策する人影はほとんどない。長雨が続くと、犬たちもストレスがたまってしまうだろうと心配する。(2006・9・5.私の日記) 「寒い方が好きです」 急に寒くなりましたね。でも、この程度ではどうっていうことはありません。私はどちらかというと、寒い方がいいのです。それにしてもこの夏は暑かったなあ。以前にも泊りに来たことはありますが、この家に住んでみて、いままでの家と比べ本当に暑さを感じたのです。 …

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1282 hana物語(24) 第2章 つぶやき1

人はなぜペットを飼うのだろうか。さまざまな事情があるだろうが、私の家族の場合は、思わぬ形でやってきたhanaという珍客を私と娘が大賛成、妻は戸惑いの気持ちで迎え入れた。 ところが、戸惑いつつ毎日hanaの世話をするようになった妻は、いつの間にかだれよりも大事にし、hanaの方も妻を慕う関係になった。私が外出から帰っても素知らぬふりをすることがほとんどなのに対し、妻が外から帰ってくると玄関に駆け寄り、「キュン、キュン」と泣いて歓迎するのだった。 娘に対しても妻と同じ行動を取るハナは、散歩のときだけ2人の言うことを聞かない場合が少なくないが、私にだけは従順だ。動物的カンでこの人の力には負けてしまうと感じているのだろうか。 hanaは10歳を超えて「散歩はいやです」と意思表示をすることが目立つようになった。この種類の犬は、前にも書いたように10歳を過ぎるとあとの寿命は神様からのプレゼントだという説もある。hanaもその領域に入ったあと、間もなくして死んだ。それは家族にとってつらく悲しいことだったが、私たちに安らぎの気持ちを与えてくれたhanaは、大切な思い出をいくつも残してくれた。 この章では、hanaと送った日常の断面を半分はhanaの口を借り、残りは私の日記を基に再現してみることにした。 「私の家族 hanaのつぶやき」 私はゴールデンレトリーバーの「hana」(雌4歳)です。「お父」の散歩の友だちであり、この家の中で家族と同じ生活を送っています。散歩は毎日朝夕合…

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1281 hana物語(23) 月を見る夜

2013年9月19日は旧暦8月15日の満月で、中秋の名月の日でもあった。 15夜とも呼び、昔から月がきれいに見える季節である。この夜に月が雲に隠れて見えないことを「無月」、雨が降ることを「雨月」というそうだが、幸い、数日にわたって好天が続き、この夜も名月が私たちの頭上に輝いた。庭に出ると、肌寒い。hanaが眠る庭にも月明かりが注いでいる。 椅子に座ってワインを飲んだ。hanaも私のそばで名月を見上げているような錯覚を抱いた。 「十五夜の雲のあそびてかぎりなし」。客観写生に徹した句「瀧の上に水現れて落ちにけり」で知られる後藤夜半の俳句である。山本健吉編「句歌歳時記 秋」は「仲秋の名月の夜。この日はかくべつ雲が気にかかるものだが、雲はだだっ子のように、遊んで遊んで、月にちょっかいを出そうとする。仕方がないが、それもまた面白いといった気持。『雲のあそびてかぎりなし』とは、面白い。月見の席の人たちの、不安な心の照りかげりまで連想させる」と、解説している。 hanaがいなくなって、51日目の夜だった。 遺骨も庭に埋葬したので、hanaは写真のほかは家族それぞれの心の中に大きな位置を占める思い出の犬になっている。遺骨を埋葬した日は、台風の影響で大雨が降った。しばらく様子を見て、晴れ間が出たのを見計らい、別れの儀式をやった。それだけに15夜は「無月」や「雨月」にならないよう願った。昼、彼岸花が咲いているのを見た。夕方になるとコオロギが鳴き、庭にもその音が響きわたった。空に雲はなく、…

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1280 hana物語(22) 別れの日

2013年9月15日は、台風18号が接近してきた影響で朝から強い雨が降っていた。だが、昼近くから晴れ間がのぞいた。この日、hanaの49日には少し早いが、床の間に飾っておいた遺骨を庭に埋めてやることにした。その場所は、前から決めていたように、金木犀と夏椿の間にした。居間からよく見える場所であり、さびしがり屋のhanaには一番落ち着くのではないかと思ったからである。 昼食後、家族全員(私と妻、長女の一家3人と次女の計6人のほか、hanaの妹分のミニチュワダックスフントのノンちゃん)が床の間のある和室に集まり、骨壺からhanaの遺骨を箸で取り出し、hanaの似顔絵と、みんなの惜別の言葉(「ありがとう」「大好きだよ」「またあとで」「♡♡♡)」を刺繍した布製の袋に入れた。袋に入れる時は、さびしさのあまり、誰かが泣いてしまうのかと思った。だが、大人の沈んだ気持ちを救ってくれたのは2歳半の小さな孫娘だった。 大人に交じって箸を持ち、一生懸命に骨壺から骨を袋に入れようとする。しかし、なかなかそれがはかどらず、両親からは「少しどいていなさい」といわれる。それでも箸を持ち続け、勢い余ってhanaの骨が自分の唇に触ってしまった。その骨には黒い糞が付着しており、孫娘は「hanaちゃんのうんちを食べてしまった」と言って、大人を大笑いさせたのだ。 hanaの遺骨を埋める金木犀と夏椿の間は、事前に穴を掘っていた。樹木の根が張っていて大変かと思っていたが、意外にそれはなく容…

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1279 hana物語(21) 白露の季節

はな、ありがとう。 はなが来てくれたおかげで 私たちの世界が広がって 豊かな毎日になったよ。 一緒にお散歩することで 花の香りや季節の変化を感じたり。 人間以外の動物がかわいいと 思えるようにもなった。 はなには感謝することばかりです。 また会おうね。 本当に本当にありがとう。 (はなへの感謝の詩 次女作) 猛暑の夏がうそだったように9月に入ると気温が下がり、湿度も低くなった。空にはいわし雲が浮かんでいた。庭のほおづきは真っ赤に色づき、夜にはコオロギが鳴くようになった。二十四節気の「白露」(大気が冷えてきて、露ができ始めるころ)は、9月8日だった。夕方、一人で遊歩道の散歩に出た。一周6.4キロ。1時間以内に歩くのは容易ではない。かつてはそれができたが、加齢とともに難しくなった。 ラジオを聴きながら歩いた。TBSではニュース番組をやっていた。2020年の五輪が東京に決まったことにも触れている。プレゼンテーションで安倍首相が話した「汚染水は0・3キロ平方の範囲内で完全にブロックされている」は、うそだと言い切る解説者もいた。メディアの多くは、招致決定に浮かれているが、被災地の現実は何も変わっていないのにと思う。 IOC総会のプレゼンテーションでは、被災地・気仙沼出身のパラリンピック陸上選手、佐藤真海さんの「スポーツの力」を訴えるスピーチは感動的だった。その気仙沼では、大震災の象徴とも言われた鹿折地区に津波で打ち上げられ、これまで残っていた漁船「第18共徳丸」の…

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1278 hana物語(20) 輪廻転生~いつの日か

「輪廻転生」。霊魂がこの世に何回も生まれ変わってくるという意味で、多くの宗教でこの考え方が存在するという。私は突き詰めて考えたことはなく、信じてもいないのだが、なぜかhanaが生きている間から「この子は今度生まれ変わるとしたら私たちの子どもになりたいと思っているのかもしれないな」などという、とりとめのない会話を家族の間で何回か交わしたことがある。 こんなに早く、私たち家族の前から消えてしまうとは、思ってもいなかった当時のことだ。いま、何かを考えるような表情をした写真を見ながら、hanaは最期の日々をどんな思いで送ったのだろうかと想像している。 旅行から帰ってきたときなど、家族がhanaの散歩を兼ねて駅まで迎えにきてくれることがあった。hanaは私に気が付くと、大喜びをして尻尾を振りながらリードを引っ張るようにして近づいてくる。そのうれしそうな表情は、いまも心に焼き付いている。時には散歩を嫌がっても、「駅までお父さんを迎えに行くよ」と家族が話しかけると、いそいそと歩き出すのだそうだ。 若いころは、遠くからでも私のことはすぐに分かって走ってきたが、歳をとるにつれて気が付くのが遅くなった。それは仕方がないことだった。 だが、見かけは若かった。がんと分かってから急速に衰えて顔の精気も失われたが、その前の6月には動物病院の待合室で、他の犬の飼い主から「若いワンちゃんですね」といわれて、自分のことではないのにもかかわらず、有頂天になった。 「いや10歳です。間もなく11歳になるの…

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1277 hana物語(19) 月命日に写真集が完成

hanaがこの世を去って2013年8月30日で1カ月が過ぎ、「月命日」を迎えた。仏教用語では「祥月命日」という、一周忌以降の故人の亡くなった月日(命日)と同じ月日のことを指す言葉もあり、ややこしいが、いずれにしても時間の過ぎるのは早く、あの悲しみの日から多くの時間が流れたわけである。 この日の朝、日課になっているラジオ体操に出かけた。8月30日は金曜日であり、子どもたちにとっては夏休みのラジオ体操参加の最終日だった。いつもより人数が多いと思ったら、第2体操が終わると、子どもたちにお菓子が配られた。これが楽しみで参加していた子どもたちが少なくないだろう。カメラを構えたお母さんもいて、いつもより活気ある時間が過ぎた。 第1体操の途中、散歩中のハナちゃん(ゴールデンレトリーバー)と飼い主がやってきて、私に近寄ってきた。体操を中断し私が撫でてやると、ボールを口にくわえたハナちゃんは大喜びで体を摺り寄せてきた。まだ、私の体のどこかに、hanaのにおいが残っているのだろうか。いつもの散歩コースである、調整池周囲の遊歩道では、hanaは人気者だった。ハナちゃんの飼い主も同じ名前のhanaをやさしい目で見つめてくれた。散歩途中に立ち止り、hanaを撫でてくれる人もいた。 その一人である女性と29日の朝、遊歩道で会った。女性はhanaの姿がないことに気が付き「hanaちゃんはどうしたのですか」と聞いてきた。「実は7月末に病気で死んでしまいました」と答えると、この女性は見る見る顔を歪め、泣き顔になっ…

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1276 hana物語(18) たまには私だって

犬を主人公にした小説で一番心に残っているのは、ジャック・ロンドンの「野性の呼び声」だ。アメリカ、カリフォルニアの判事の家でのんびり暮らしていた大型犬バックが、庭師に盗まれてゴールドラッシュに沸くアメリカとカナダ国境へと売られ、過酷な犬ゾリ隊に組み込まれ、いつしか野性を取り戻していくという話である。 hanaはイギリスが原産のゴールデンレトリーバーという犬種で、かつては狩猟犬といわれた。野生の呼び声のバックとは対照的に穏和な性格で、怒った姿を見ることは少なかった。 元気なころ、hanaは私が帰ると遊んでくれと言いたいのか、「ウー」という低いうなり声を出して、近寄ってくるのが定番だった。じゃあ「遊ぶか。捕まえるぞ」と言いながら、私が追いかけようとすると、逃げ出して居間をぐるぐる回る。ようやく捕まえた私が体に抱き付いたり、顔を両手で挟み込んでごしごしやったりする。 すると、hanaはソファーに上り込み、腹を出して喜ぶ。さらに腹をくすぐると、口を大きく開けて、低いうなり声を出す。その口の中に手を突っ込んでも、hanaは決して噛むことはしない。私とhanaの遊びは夕食直前の時が多く、そのうち妻から「うるさいわね。もうやめなさい」という警告があり、数分で終わりになる。 犬の種類によっては、例えばビーグル犬のような食欲の旺盛な犬は、餌を食べている最中に飼い主がちょっかいを出すと、遠慮をせずにその手や腕を噛んでしまうことがあると聞いた。hanaも元気なころ、食欲旺盛という点ではビーグル犬に…

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1275 hana物語(17) 問題行動のわけは

hanaの散歩コースだった調整池周辺の遊歩道は、早朝だとだれにも出会わないときも少なくなかった。排泄が終わり、それを拾ってからリードを外して首輪だけにしてやると、hanaは喜んで走り出す。いい運動になるのだが、ちょっと目を離すと遊歩道からそれて、すり鉢状になった池の方へと入り込んでいき、雑草の中を駆け回る。それだけならいいのだが、始末が悪いことにその周辺には別の犬たちの排泄物がかなりある。そして、hanaは問題行動を起こしたのだ。 私たち飼い主にとっては問題行動なのだろうが、hanaを含めた犬たちには実は自然な行動らしい。私とかなり離れた場所まで入り込んだhanaは、その付近のにおいをかぎ続け、次に体を反転させ、つまり寝転がって、体に何かをつけている。私は大声で呼び続けるが、hanaは聞こえないふりをしているのか、夢中になっているのか、結構長い時間その行為をやっている。しばらくして私の怒声に気付いたhanaが戻ってくる。すると、体から猛烈な異臭がし、全身に黒っぽい糞が大量に付着している。 家に帰り、一部始終を家族に話すと長女に激しく怒られた。以前にも同じ行動をとり、全身を丁寧に洗ってもなかなか異臭は消えなかったというのだ。その日も長女がhanaを洗い始めたが、終わるまで1時間近くかかってしまった。それ以来、リードを外すことはやめようと思ったのだが、ついこの事件を忘れてしまって、何度か同じ過ちを繰り返した。 この行動は、獲物を狙う際に自分の体臭では気が付かれることを警戒し、他の犬の…

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1274 hana物語(16) 金木犀とともに

私がhanaの骨を庭の一隅に埋めてやろうと思った理由は、家族の「近くに置きたい」という言葉だけではない。私のブログにリンクしている「消えがてのうた part2」のaostaさんの「ボンボンがいた日々」(2012年8月31日)という、絶唱ともいえるブログを読み、さらに名作「ハラスのいた日々」で、作者の中野孝次さんが愛犬ハラスの亡骸を庭の柘榴の木の根元に埋めたことを書いていたことを思い出したからだ。 「消えがてのうた part2」のブログは哀しく、詩情豊かな内容だった。その文章が私の胸に迫った。 《ひと月前までは、ボンボンがいた。すでに2カ月余り、半身不随の形で寝たきりでではあったけれど、水も流動食も、シリンジ(注射筒)で口に入れてあげれば、よく飲み、よく食べた。食欲のあるうちは大丈夫、そう思うことで安心したかった。 けれども日を追うにつれて食欲は落ち、それとともに体力もなくなって、ある日からぱたりと水を飲まなくなった。そして降るような蝉しぐれがいつの間にか静かになって、秋を思わせる風が庭草を揺らしていた朝、ボンボンの呼吸は静かに停まった。未明には、まだ浅い呼吸で上下していた胸が、夜が明けた時にはもう微動だにしていなかった。開いたままの瞳は、元気だったころと同じように黒々と光ったままだったのに。 8月1日の早朝、ボンボンは逝った。長いこと寝たきりだったボンボンのわき腹や脚の関節部分には、床ずれが出来ていた。手当の甲斐もなく、傷口は大きくひろがって、流れ出す膿は、甘く饐えた臭いが…

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1273 hana物語(15) 誕生日が過ぎて

hanaは2002年7月1日の生まれで、2013年夏11歳になった。それから30日間でこの世を去ったが、毎年祝った誕生日のことが忘れることができない。それはユーモラスであり、hanaにとっては、ごちそうにありつける記念日でもあったはずだ。その誕生日を1回だけうっかり忘れていたことがあった。6歳になった2008年7月1日のことだった。 この日、私たち家族(当時娘2人が家にいたので4人暮らし)のだれもがhanaの誕生日であることを失念していた。私は朝の散歩もいつものようにやり、何の声も掛けずに出かけた。健忘症だったのは私だけでなく、家族全員だった。朝食でだれもそのことを話題にしなかったのである。 だが、一番hanaのことを気にかけている次女が夕方になって、大事な日であることを思い出した。次女から携帯電話のメールで「きょうはハナの誕生日だよ。祝いに好物の豆腐を買って帰る」と連絡があり、私は「ああそうだった」と思った。家族間では、だれかの誕生日近くになると、プレゼントはどうするなどという話をしているので、忘れることはない。だが、hanaは家族の一員のはずなのに、かわいそうに夕方まで忘れ去られていたのだ。 誕生日のお祝いは、豆腐をケーキのような形にして6本のろうそくを立て、記念撮影をする。hanaは早く食べたくて、落ち着かない。写真撮影が終わって「よし」と声をかけると、hanaは豆腐ケーキにかぶりつき、1分足らずでたいらげる。これで終わりなのという顔をしたhanaは、豆腐ケーキを入れた容器…

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1272 hana物語(14) 爪楊枝事件

hanaは、犬族の一員として旺盛な食欲を誇っていた。元気なころは朝夕の餌だけでは足りないのか、私たち家族が食べている人間食まで欲しがった。動物病院の獣医さんに言わせると、犬にはドッグフード以外は不要ということだが、よだれを流さんばかりのhanaの表情を見ていると、つい分けてやってしまう。 それが原因で大騒ぎになったことがある。7歳が過ぎた2009年9月、hanaが爪楊枝を飲み込んでしまったのだ。 8、9月は果物の梨の季節で、我が家の食卓にも梨がよく出ている。ある日、朝食後に梨を食べた妻が、hanaにもお裾わけと称して爪楊枝に刺した梨を食べさせようとした。 すると、hanaは勢いよく爪楊枝ごと梨を飲み込んでしまったのだ。心配になった妻がちょうど会社が休みだった次女と一緒に近所の動物病院にhanaを連れていくと、獣医は「うちでは取り出してやる設備がないのでどうしようもないのです」と言って、設備の整った病院を紹介してくれた。そこは今年7月初めに、hanaが肝臓がんに侵されていると診断した病院で、かなり遠方からペットを連れてくる人もいる有名な動物病院だ。 この病院の獣医は妻の話を聞くと「爪楊枝といって軽く見てはだめです。内臓のどこかに刺さったままだと大変です」と話し、除去するには2つの方法があると説明した。吐き気を催す薬を使って食べたものと一緒に吐かせること、それがだめなら内視鏡を使って爪楊枝がある部分を調べ、メスで開腹して取り出すというのだ。その説明を聞いて心配になった妻と次女は泣い…

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1271 hana物語(13) 3・11のこと

2011年3月11日の東日本大震災は私の「個人史」の中で特筆すべき事象であり、同じ思いの人たちは少なくないはずだ。11年という短い生涯だったhanaにとっても、衝撃的な大地震だったに違いない。当時我が家で産後の静養中の長女が留守番をしていた。赤ちゃんを抱えて、眠れぬ一夜を送った長女にとって、hanaの存在は大きな支えだった。 3・11の揺れは広範囲に及んだ。マグニチュード9・0という巨大地震は大津波を誘発し、東京電力福島第一原発に危機的状況を与えた。宮城県栗原市で震度7という最大震度を記録したのをはじめ、大阪や兵庫でさえ震度3を記録している。首都圏にある我が家周辺の揺れは震度5弱だった。この日は家族のうち私と次女は東京都内の勤務先におり、妻はけがをした母親の見舞いのため泊りがけで秋田市に出かけていた。 ふだんならhanaだけが留守番をしているはずだが、この年の1月末に子ども(私にとっては孫である女の子)を生んだばかりの長女が、赤ちゃんと犬のミニチュアダックスフント(ドの表記もあり)の「ノンちゃん」と一緒に我が家に来ていて静養中だった。こんな大災害があることは全く予想外のことであり、夜には私と次女も帰る予定だったから、長女も赤ちゃんと2匹の犬と一緒にのんびりとしていた。 hanaは、雷や花火の打ち上げの音など大音響が大嫌いで、家の中にいても雷が鳴り出すと震え出し、落ち着きなくあちこちを歩き回る。散歩の時に運動会の合図の花火が打ち上げられるとその音に驚き、散歩をやめて家に帰ろうとする…

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