1816 正義の実践とは 東電旧幹部の無罪判決に思う

 机の後ろの本棚に『ことばの贈物』(岩波文庫)という薄い本がある。新聞記事やテレビのニュースを見ながら、時々この本を取り出して頁をめくる。そのニュースに当てはまる言葉ないかどうかを考えるからだ。福島第一原発事故をめぐる東電旧経営陣3人に無罪を言い渡した東京地裁の判決を読んで、米国の政治家でベンジャミン・フランクリン(1705~1790)の言葉に注目した。強制起訴を門前払いにした形の判決は、理屈だけを前面に出したものと言えるからだ。  フランクリンは、自伝の中で「理性ある動物、人間とは、まことに都合のいいものである。したいと思うことなら、何にだって理由を見つけることも、理屈をつけることもできるのだから」と、述べている。これは最悪の関係になっている日韓両国の政治リーダーにもいえることだが、ここでは判決について考えたい。  この判決の骨子は、①最大15・7メートルの津波予測のもとになった国の長期評価は、具体的根拠を示していないので、信頼性に疑いがある②事故当時の知見(考察して知り得た内容)では、被告3人に高さ10メートルを上回る津波を予見し、安全対策が終わるまで原発を停止させる義務があったとはいえない③事故前の法規制は、絶対的安全確保を前提としておらず、3人に刑事責任を負わせることはできない、の3点だ。  無罪ありきの前提に立てば、この3点に集約されるだろう。本来なら厳格に安全対策を練るべき責任があるのに、様々な理屈をつけて対策を講じなかった。そして「想定外の津波」という言葉で責任を放…

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1813 天災と人災「小径を行く」14年目に

   台風15号によって私の住む千葉県は甚大な被害を受けた。中でも大規模停電は、昨年北海道地震で起きた「ブラックアウト」の再現かと思わせた。東京電力によると、全面復旧にはまだかなりの時間を要するという。これほど深刻な災害が起きているのに、なぜかこの日本はのんびりとしている。新聞やテレビを見て私はため息をつくばかりだ。  被害が深刻化している最中、安倍内閣の改造があり、新聞はそのニュースでもちきりだった。どう見ても、取り巻きと政治家歴が長いだけの実績不明の人たちが登用されている。ホープといわれる小泉進次郎氏が環境相(兼内閣府特命大臣)に起用され、直後に福島県を訪れ、前任者の原田義昭氏の発言(10日の記者会見で、東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含んだ処理水について「所管を外れるが、思い切って放出して希釈するしか方法がないと思っている」と述べた)を謝罪した。得意のパフォーマンスである。彼が弁明することではなく、原田氏の問題のはずである。謝られた福島県も当惑しただろう。  この後、ヤフーがファッション通販サイトZOZOTOWNを買収し、ZOZOの創設者、前澤友作氏が代表取締役社長を退任するニュースが大きく扱われた。同時に前澤氏が自身の保有株を売却し、2400億円を手にすると報じられた。世の中にはこんな人もいるのである。停電によって炎暑地獄に暮らす人々とは別世界の話であり、不快になって途中でテレビを消した。  ブラックアウトは、電力会社の管内全域が停電することを言う。今回の千…

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1806 ハチドリの助けを呼ぶ声 アマゾンの森林火災広がる

 南米ブラジルでアマゾンの熱帯雨林が燃え続けているという。森林火災により今年だけでも鹿児島、宮崎を除く九州と同じ面積(1万8629平方キロ)が焼けてしまい、熱帯雨林が危機になっている。アマゾン地域には「ハチドリのひとしずく」という言い伝えがあるが、ハチドリたちは今、孤軍奮闘しているに違いない。  ハチドリは南北アメリカ大陸と西インド諸島に分布し、一番小さな鳥として知られている。金属光沢のある美しい鳥で、飛ぶ時の羽音がハチに似ているためこのような名前が付けられたのだという。アマゾンにも珍しくないから、言い伝えの中にも登場するのだろう。  日本の絵本にもなった言い伝えは以下のようなものだ。(拙ブログ2014年3月17日=1212回、3月28日=1221回から) 《森が燃えていました。森の生きものたちはわれ先にと逃げていきました。でも、クリキンディという名のハチドリだけは行ったり来たり。口ばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは火の上に落としていきます。動物たちがそれを見て、そんなことをしていったい何になるんだ、といって笑います。クリキンディはこう答えました。私は、私にできることをしているだけ。(辻信一監修・ハチドリのひとしずく~いま、私にできること・光文社刊より)》  小さなハチドリだけでは森の火事は消せないかもしれない。だが、そのハチドリに続いて人間を含めた多くの生き物が力を合わせれば、森の火は消せるかもしれない……。この言い伝えは、自分ができることを自分なりにやるという、ボランテ…

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1802 グッドニュースとバッドニュース 昨今の話題から

 昨今、新聞やテレビのニュースになるのは暗い話題がほとんどである。輸出管理の優遇措置を認める「ホワイト国」から韓国を除外したことをめぐる日韓の対立、愛知県での「表現の不自由展」の開催直後の中止、アメリカの相次ぐ銃乱射事件、北朝鮮による飛翔体(短距離ミサイル)発射……など、バッドニュースが占めている。そんな中で、女子ゴルフの全英オープンで優勝した20歳の渋野日向子選手の話題はグッドニュースだった。 「福音」という言葉がある。辞書を引くと「喜ばしい知らせ。うれしい便り」のほかに「キリスト教で、キリストによって人類が救済されるという喜ばしい知らせ。また、それを伝える教え」(大修館書店「明鏡国語辞典」)と出ている。福音はまさにグッドニュースなのである。しかし、2019年8月の世界と日本からは、そうしたうれしい便りはほとんど届かない。  きょうは8月6日。テレビでは広島の原爆の日の「平和記念式典」の中継をしていた。会場には外国人の姿が目立つ。小学6年生の男女2人による「平和への誓い」の一節が心に響いた。《国や文化や歴史、違いはたくさんあるけれど、大切なもの、大切な人を思う気持ちは同じです。みんなの「大切」を守りたい。「ありがとう」や「ごめんね」の言葉で認め合い許し合うこと、寄り添い、助け合うこと、相手を知り、違いを理解しようと努力すること。自分の周りを平和にすることは、私たち子どもにもできることです》  経済戦争状態になってしまった日韓関係を見るにつけ、この広島の子どもたちの言葉を互いの政…

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1796 京都の放火殺人・あまりの惨さに慄然 人の命はかくもはかないのか

 34人が死亡し、34人が重軽傷を負った京都アニメーションに対する放火殺人事件は、日本の犯罪史上、稀に見る凶悪事件と言っていい。放火容疑者は病院に収容されているが、回復して動機の解明ができるのだろうか。放火による多数の犠牲者というニュースに、1980(昭和55)年8月19日夜、新宿駅西口で定期バスが放火され6人が死亡、22人が重軽傷を負った事件を思い出した人も少なくないかもしれない。世の中に不満を持った男による無差別テロともいえる犯行だった。男は裁判で無期懲役となり、服役中に自殺した陰惨な事件だった。あれから39年の歳月が流れ、同じように罪なき人々が多数犠牲になってしまった。  新宿バス放火事件の夜、通信社社会部の遊軍記者だった私は3週間に1度の泊まり勤務に入っていた。火曜日の午後9時すぎだった。パソコンがない時代のことである。2人のデスクはまだ机の上に置かれた多くの原稿と格闘していた。警視庁とデスクとを結ぶ黒い電話が鳴った。受話器を取り上げるだけでダイヤルの必要はない電話で、デスクの代わりに出てみると、後輩の警視庁担当記者が「新宿駅西口でバスへの放火があり、多数の死傷者が出た模様です。番外をお願いします」と叫んでいる。  番外というのは、通信社から各新聞社、放送局に速報を流すことを言う。当時は手書きであり、私は番外を書く用紙に「警視庁によると、午後9時過ぎ、東京・新宿駅西口でバスへの放火があり、死傷者多数の模様」と書き、デスクに声を掛けて渡した。その夜、私たち3人の泊まり勤務者は、この事件関…

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1794 新聞と誤報について ハンセン病家族訴訟・政府が控訴断念

 朝の新聞を見ていたら、「ハンセン病家族訴訟控訴へ」という記事が一面トップに出ていた。朝日新聞だ。ところが、朝のNHKや民放のニュース、共同通信の記事は「控訴断念の方針固める」と正反対になっている。どちらかが誤報なのだろうと思っていたら、安倍首相が会見し「控訴断念」を発表したから、朝日の記事は誤報だった。それにしてもこのような正反対の裁判の記事が出たのはなぜなのだろう。朝日の記者は詰めの取材が甘かったか、だまされたのだろう。  ハンセン病家族集団訴訟は、6月28日に熊本地裁で判決があった。ハンセン病の元患者の家族561人が国に損害賠償と謝罪を求めたもので、判決で裁判所は隔離という差別政策をとった国の責任を認め、総額3億7675万円(1人当たり143万~33万円)の支払いを命じた。これに対し、朝日新聞は9日付の朝刊一面トップで「政府は控訴して高裁で争う方針を固めた。一方、家族に対する経済的支援は別途、検討する。政府関係者が8日、明らかにした。国側の責任を広く認めた判決は受け入れなれないものの、家族への人権侵害を認め、支援が必要と判断した」という記事を掲載した。  ほかの新聞朝刊にこの記事は出ていない。事実なら朝日の特ダネ記事といえた。ところが、冒頭に書いたように、この記事の後追い取材をしたと思われる各報道機関は、正反対に「控訴断念」を流している。NHKは「安倍首相が決断」とも付け加えた。私の経験からしても往々にして後追いの方が正しいことが多いから、朝日の記事は間違いなのだろう。どうして、こうした…

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1793 日本は言葉の改まりやすい国  中日球団の「お前」騒動と日本

 プロ野球、中日の攻撃の際に歌われる応援ソングの中に「お前が打たなきゃ誰が打つ」という言葉があるそうだ。この「お前」という部分に与田監督が「選手がかわいそうだ」と違和感を示し、応援団がこの歌を使うのを自粛したというニュースが話題になっている。お前は「御前」のことであり、かつては「神仏や貴人の前」など、敬称として使われた。しかし、現代では主に男性が同等あるいは目下の者に使う言葉だ。中日の応援ソングをめぐる騒動は、言葉に対し人それぞれ微妙な感覚を持っていることを示している。  かつて、この言葉を普段からよく使う人が私の周辺にもいた。デスクという立場にあるこの人は、第一線記者の原稿を見たり、取材の指示を出したりする際に必ずこう言うのだった。「〇〇君(あるいは呼び捨てで)」と名前を読んだ後、「お前さんのこの原稿だがねえ……(原稿の内容について問い合わせの時)、「お前さん、これを取材してほしいんだ……」(取材の依頼の時)と話すのだった。初めに名前を読んでいるのだから「お前さん」は必要ないはずだが、必ず付け加えるのである。 「お前」だと見下すような印象があるが、「さん」が付くとそれが少し緩和され、仲間意識が伝わるから、彼はそれを意識して使っていたのかもしれない。落語を聞いていると、奥さんが旦那を呼ぶ際に使っているが、現代の家庭にこうした呼び方が残っているかどうか分からない。かつての社会部デスクは江戸っ子だったから、何気なくこの言葉が口に出たのかもしれない。  昭和の歌謡曲で「おまえに」というフランク…

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1782 絶対ではない人間の目 相次ぐ誤審の落とし穴

 ゴルフのように審判がいない競技もあるが、スポーツ界で審判は重要な役割を持っている。審判の判断に勝敗の行方が大きくかかわることが多く、「誤審」が話題になることも少なくない。人間の目は確かなようで間違いもあるため、最近はビデオ判定も珍しくない。サッカーのJリーグの誤審に続いて、大相撲でも夏場所13日目の栃ノ心と朝乃山戦で日本相撲協会に抗議が殺到する誤審(私はそう判断する)が起きた。50年前の横綱大鵬の大記録が途切れた際の誤審をきっかけにビデオ判定が導入されたといわれるが、今回も人間の目を優先した結果、落とし穴に落ち、相撲ファンに不信感を与えてしまった。  米大リーグをテレビで見ていると、「チャレンジ」という言葉が時々使われる。監督が審判の判定に異議を申し立てると、ビデオ判定員に確認を求めるのだ。2014年から採用された制度で日本のプロ野球でも監督が判定に対し映像によるリプレー検証を求める「リクエスト」という制度が2018年から実施されている。セーフかアウトか、本塁打かファールかなどで、判定が覆ることがしばしばある。  微妙な場面で人間の目が、見間違いを犯してしまうことがよく分かる。その典型が、今月17日に埼玉スタジアムで開催されたサッカーJ(1)リーグ、浦和レッズと湘南ベルマーレの試合のゴールの判定だった。前半31分、ベルマーレの選手によるシュートがゴールしたにもかかわらず、主審は右のポストに当たってゴールラインを割って反対側のサイドネットを揺らしたとして、得点を認めなかった。映像を見て…

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1781「政治とは距離を置く」 仏地方紙の気骨を羨む

 フランスのマクロン大統領が複数の地方紙のインタビューに応じた際、大統領府が記事を掲載する前に見せるよう求めていたことが明らかになった。記事の事前検閲といえる。反発した一部の地方紙はインタビューに加わらなかったという。「政治とは距離を置く」というのが理由だ。当然のことだ。昨今、日本の報道機関にはこうした報道機関の基本姿勢を忘れた幹部が存在することに歯がゆい思いがする。  新聞社や通信社の記者は、取材して書いた記事は事前に取材対象に見せることはしないのが原則だ。識者への談話取材などでその内容を説明することはあるが、記事そのものを相手に見せることはない。事前検閲に応じていたら、権力を批判する自由な記事は書けない。マクロン大統領のインタビュー記事を見せることを断った新聞社がある一方で、応じた新聞社もあったという。それらの新聞は「政治とは距離を置く」という原則を忘れたのか、初めからなかったのだろう。  このブログで何回か、日本の首相動静の記事について書いたことがある。首相番の政治部若手記者が首相の一日の動きを追い、時間ごとに場所、会った相手と目的(会議や会合など)を掲載している。この動静でこのところ目に付くのが、マスコミ関係者との会食・懇談だ。  連休明け後、その会食・懇談は顕著だ。ちなみに新聞報道によると▼8日(東京・丸の内のパレスホテル4階宴会場「桔梗」)▼9日(東京・千代田区の帝国ホテル内の「中国料理 北京」)▼15日(東京・港区の寿司店「すし処魚しん」)▼21日(東京・赤坂の日本…

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1780 権威に弱い民族性 トランプ氏の相撲観戦計画

 ドナルド・トランプ米大統領(72)が26日の大相撲夏場所千秋楽(東京・両国国技館)を観戦するという。土俵近くの升席に椅子を置いて座るというのだが、伝統を守るという名目で保守的な相撲協会も、米国のトップには異例の待遇といえる。トランプ氏の相撲観戦へというニュースを見ていて、太平洋戦争敗戦後、占領軍(GHQ)総司令官マッカーサーと総司令部に日本国民が約50万通にも及ぶ投書を寄せたというエピソードを思い起こした。権威に弱い民族性は、今も変わらないように思えるのだ。  国技館には土俵を見下ろす貴賓席があり、天皇皇后はここで観戦していた。新聞報道によると、今回は格闘技が好きなトランプ氏のために安倍首相が提案、升席に招待したという。ここは通常座布団に座るが、あぐらに慣れないトランプ氏のため特例として椅子を用意し、複数のSP(警官)が周囲に付く。スポーツ紙には千秋楽の正面升席は相撲協会がトランプ氏用に特別に確保、トランプ氏らは幕内の後半数番だけを観戦し、優勝者に「トランプ杯」を授与する予定だが、幕内前半ごろまでは正面升席の一角だけが空席のまま進行するという前代未聞の千秋楽になる見通し、という記事が出ていた。トランプ氏の相撲観戦の特別待遇は王様扱いなのだろう。  戦後の日本でマッカーサーとGHQ総司令部へのおびただしい投書があったことを明らかにしたのが袖井林次郎著『拝啓マッカーサー元帥様 占領下の日本人の手紙』(単行本1985年8月・大月書店、文庫本1991年2月・中公公論)である。袖井は米国のマッ…

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1778「はるかクナシリに」 国会議員の「戦争発言」と酒の二面性

 「知床旅情」という歌を知っている人は多いだろう。作詞作曲した森繁久彌さんや加藤登紀子さんが歌い、私も好きな曲である。この歌の一番の詞の最後は「はるかクナシリに 白夜は明ける」となっている。「クナシリ」は北方領土(四島)のうちの国後島のことである。つい先日、国後島へのビザなし交流訪問団に参加していた丸山穂高という衆院議員が飲酒後、訪問団の団長に質問する形で「戦争で島を取り返すことに賛成か反対か」という発言をしていたことが明らかになり、所属していた日本維新の会から除名された。本人は国会議員はやめない意向だが、こんな議員がいる国会の劣化は激しいといっていい。  この議員の発言について「失言」あるいは「大失言」という表現の報道を見た。失言は「言ってはいけないことを、不注意で言ってしまうこと。言いあやまり。過言」(広辞苑)という意味で、丸山議員の言葉は失言というよりも酒の勢いを借りての本音ではないかと私は思う。日本維新の会代表の松井大阪市長は「議員を辞職すべきだ」と語ったが、代表自ら辞職を勧告すべきではないか。(注記、その後の言動を見ていると、酒に関係なく、この人の考え方は危うい) 「古代ギリシャ人は、アルコールの化学的成分やその神経組織に対する影響については無知だったが、人間の意識にあたえる効果については不可思議な何ものかがあると認めていた。何杯かのワインによって“途方もない”喜悦に体をほてらせ、平凡さ、偶然、必滅とかを感じなくなるプルースト(筆者注『失われた時を求めて』の作者ばりの感覚を得…

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1770 新札デザイン・2千円・守礼の門は 司馬遼太郎の沖縄への思い

 2024年度から紙幣(1万円、5千円、千円)のデザインが変更になると政府が発表した。唯一、2千円は変わらない。普段、私はお札のデザインを気にしていないが、かつて1万円については「聖徳太子」という別称があったことを記憶している。表紙の聖徳太子がそれだけなじんでいたのだ。現在の1万円の顔は福沢諭吉であり、今度は渋沢栄一になるという。「しぶさわ」が1万円札の象徴として扱われる時代、日本はどんな歩みを続けるのだろう。  紙幣デザインの変更を聞いて、影が薄いとだれしも思うのは2千円札のことだろう。最近ほとんど見かけないし、1万円や5千円の買い物をして、そのおつりでもらうこともない。表は首里城の「守礼の門」で、裏は源氏物語絵巻のデザインだ。2000年に開かれた沖縄サミットを記念して発行されたが、中途半端な額のためか利用度は低く、既に製造は中止になっている。現在は発行された分だけが流通しており、ほぼ9割が沖縄県で使われているそうだ。それだけに今回のデザイン変更で使用停止になる可能性もあったが、何とか生き残った。 「戦前、首里の旧王城(注・かつての国宝)がいかに美しかったかについては、私はまったく知らない。(中略)いまは、想像するしかない。(中略)私の想像の中の首里は、石垣と石畳の町で、それを、一つの樹で森のような茂みをなす巨樹のむれが、空からおおっている」  これは、作家の司馬遼太郎が『街道をゆく6 沖縄・先島への道』(朝日文庫)というエッセー集の中で、首里について記したものだ。『街道をゆく…

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1763 世界はどこへ行くのか NZクライストチャーチの凶行

 ニュージーランド(NZ)南島最大の都市で「ガーデンシティ」と呼ばれるほど美しいクライストチャーチで、信じられない事件が起きた。2つのイスラム教モスク(礼拝所)でオーストラリア人の男が銃を乱射し、50人が死亡した。世界でも有数の安全な国といわれるNZでさえ、こうしたテロが起きる時代。世界はおかしな方向へと突き進んでいると思わざるを得ない。  クライストチャーチといえば、東日本大震災(2011年3月11日)の直前の2月22日、この街はM6・1の地震に見舞われた。この地震によって街の象徴、大聖堂の尖塔が倒壊するなどして多くの人が崩壊した建物の下敷きになり、死者185人が出たことは記憶に新しい。死者のうち28人は日本からの留学生だった。  テレビニュースで、事件の発生場所近くの公園が映し出され、どこかで見たことがあると思った。そうだ、この街の中心部にあるハグレイ公園ではないか。面積は165ヘクタールで東京日比谷公園の10倍もある広大な公園だ。難を逃れ、この公園に避難した人もいたようだ。10数年前、この街を訪れ、公園を歩いたことを思い出した。緑が多く、水が澄んだ川には遊覧用の小舟が浮かび、この街に住む人たちをうらやましく思った。  事件は白人至上主義に陥った28歳の若者の犯行だった。時代が進んでも人種差別は永遠に消えない。米国の白人による黒人差別の歴史は生々しいし、ヒトラー率いるナチスドイツはおびただしいユダヤ人を虐殺した。日本人もまた、アジアの他の国の人たちを見下した時代があった。21…

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1760 言葉が泣いている 検討から真摯へ

 昨今、政治家の常套(じょうとう)語として使われるのは「真摯」だ。以前から国会で使われている常套語の代表ともいえる「検討」という言葉の影が薄くなったほどである。本来「まじめでひたむきなこと」という意味の真摯が、いい加減な言葉として使われているようで残念でならない。折角の言葉も使われ方次第で、品位を失ってしまう典型といっていい。  国会の審議でよく聞かれる「検討します」という言葉は「よく調べて、対策を講じる」はずなのに、質問をはぐらかすために答える「何もやらない」という意味に使われることがほとんどだ。あいまいな意味の役人用語でもある。与党の質問には「前向きに検討します」という答弁が目立つのだが、野党の質問に対してはまともに答えないから、最近は「検討します」という言葉自体、あまり聞かれない。 「真摯」の方は、森友・加計問題や沖縄の辺野古新基地問題で政府首脳が連発している。その裏でどう見ても真摯とは思えない言動が明らかだから、その姿勢は実は「ふまじめでいい加減」に見える。2月の辺野古基地建設の是非をめぐる沖縄県の県民投票で、建設反対票が7割以上という結果が出た後、安倍首相は「真摯に受け止め、沖縄の基地負担軽減に取り組む」と発言した。だが、県民投票の翌日から土砂投入が再開され、玉城デニー知事との会談では「世界で一番危険といわれる普天間の状況を置き去りできない」と語るだけで、県民投票の結果を考慮しない頑なな姿勢を続けている。いわば無視といっていい。  そして、沖縄では「真摯」とは程遠い問題…

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1753 天に通じる肉親の言葉 池江選手の白血病公表

「人事を尽くして天命を待つ」というよく知られた言葉がある。「人としてできる限りのことをして、その結果は天の意思に任せるということ」(大修館書店・明鏡国語辞典)という意味だ。中国南宋時代の政治家で儒学者、胡寅(こいん)が記した『読史管見』にある「人事を尽くして天命に聴(まか)す」が出典といわれる。水泳の池江璃花子選手が白血病であることを公表したニュースを聞いて、この言葉を思い浮かべた人は少なくないだろう。  若さにあふれ、向かうところ敵なし。まさに天才スイマー。そんな18歳を突然、病魔が襲った。「白血病と診断されたとき、頭が真っ白になった」。昨年10月、横浜市で開催された白血病の骨髄移植に関するシンポジウムで、大学在学中に白血病になった元患者の若い女性がこう話していたことを忘れることができない。  オリンピックという大きな目標に向かって歩みを続けている時に、突然立ちはだかった病気という大きな壁。「私自身、未だに信じられず、混乱している状況です」というコメントを読んで、池江選手が元患者と同じく不安な日々を送っていることが容易に想像できる。    辞書によると、「天命」とは①天が人間に与えた使命。天の巡り合わせ②天から与えられた命、天の定めた人間の命、天寿③天が罰す罪、天罰――の3つの意味(物書堂・精選版日本国語大辞典)があるそうだ。②と同様に「変えようとしても変えることの出来ない、身に備わった運命」(三省堂・新明解国語辞典)という説明もある。だが、この世に生を享けた以上、生きるためにで…

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1747 苦しい経験を生きる糧に 引退の稀勢の里へ

 大相撲の横綱稀勢の里が引退した。横綱在位12場所、15日間を皆勤したのはわずか2場所という短命な横綱だった。記録面から見ると、不本意な力士生活の頂点だったといえる。だが、なぜか気になる存在だった。それは相撲ファンに共通する見方だったかもしれない。  2017年春場所で左胸などに大けがをしながら出場し、奇跡の優勝といわれた。しかし、このけがが力士生命を奪う結果になった。横綱の引退でこれほど騒がれたのは、やはりけがが原因で土俵を去った貴乃花以来だろうか。不器用な力士といわれた稀勢の里は、多くのファンに愛された、まさに「記録より記憶に残る」横綱だった。  私はこのブログで、何回か稀勢の里を取り上げている。それを読み返してみると、大器といわれたこの力士へかなり期待していたことを痛感する。2012年5月25日の「 谷風、雷電と稀勢の里」、2016年7月25日の「あすなろ物語 横綱目指す稀勢の里」と、折に触れてこの人を取り上げた。相撲界は長い間、白鵬という大きな存在があり、それ以外の力士は霞んでしか見えなかった。そんな中で、稀勢の里は白鵬の連勝記録を2回も遮ったのだから、白鵬にとって一番嫌な相手だっただろう。  歴代2位の63勝まで連勝記録を伸ばした2010年九州場所2日目で白鵬に勝ったのは稀勢の里であり、2013年にも43連勝を続ける白鵬を春場所14日目にくだし、白鵬キラーになった。にもかかわらず、優勝をかけた大一番や今場所こそという時にことごとく失敗し、精神力の弱さを露呈し続けた。そん…

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1738 歳末雑感 「接続狂の時代」について 

 チャップリンによる「黄金狂時代」(1925)「殺人狂時代」(1947)という2本の名画がありますね。この2本の映画の題名を彷彿とさせる言葉に出会いました。「接続狂の時代」です。詩人の高橋郁男さんが詩誌に連載している、小詩集で書いていました。これはまさに、スマートフォンに頼る現代社会の人々の姿をとらえた言葉ではないかと、私は思うのです。  高橋さんから、最近詩誌「コールサック」に連載中の小詩集『風信』12』が届きました。今回は最初に「味の十語」として、10の言葉とユニークな解説があり、8つ目に「うつむく」が選ばれ、そこに「接続狂の時代」が出ていたのです。 《朝、開いたパソコンの画面にうつむき 通り道でスマホにうつむき 段差でつまづきそうになり すれ違いで危うく身を躱(かわ)し 電車でまた スマホにうつむく 絶え間ない接続を求め続けて 直(ひた)むきに 俯(うつむ)きになる 「接続狂の時代」を象徴する 不気味な味です》  確かに、現代は人々が「うつむく」姿が常態化している時代といえるでしょう。先日、ソフトバンクの接続(通信)障害が発生し、大きなニュースになりましたね。スマホに頼りきった多くの人々は、その不便さを思い知ったはずです。歩きながら、あるいはひどいケースだと自転車に乗りながらスマホを見ている人がいますね。電車の中で座っている人たちの大半がスマホの画面を見ていることも珍しくありません。これらを表す言葉が「接続狂の時代」なのです。「接」という文字は、今年1年を表す漢字と考えても…

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1737「12・14は屈辱の日」 名護市の土砂強行投入、民意は?

 沖縄に関する動きの中で、幾度となく「沖縄県民の気持ちに寄り添う」という言葉が使われた。6月23日の沖縄全戦没者追悼式と10月12日の玉城デニー沖縄知事との会談で安倍首相が、さらに10月9日の翁長知事県民葬で首相の言葉を代読した菅官房長官もオウム返しのようにこの言葉を並べた。しかし、この言葉が全くのまやかしだったことが、米軍普天間飛行場移設工事に関連し名護市辺野古沿岸部に政府が土砂を強行投入したことではっきりした。  政府の姿勢は「沖縄県民の」を別に言葉に入れ替えると、よく分かる。「トランプ米大統領の」あるいは「米軍の」の方が適当なのだ。新聞の首相動静欄を見ると、政府が土砂を投入した14日の夜、帝国ホテルで日経新聞の会長、社長らと食事と出ていた。こんな新聞人がいるから、言葉と反対の政治をやっても平気の平左なのだろう。今日の新聞の社説を調べてみると、東京で出ている新聞では「辺野古に土砂投入 民意も海に埋めるのか」(朝日)、「辺野古の土砂投入始まる 民意は埋め立てられない」(毎日)、「辺野古に土砂 民意も法理もなき暴走」(東京)の3紙が土砂投入の強行を厳しく批判している。  一方で「辺野古へ土砂投入 普天間返還に欠かせない」(サンケイ)という容認する姿勢の新聞もある。読売は「辺野古土砂投入 基地被害軽減へ歩み止めるな」という見出しだが、辺野古移転容認の姿勢で書いているのは明らかだ。大阪に住む友人によると、読売新聞は社会面、第二社会面に辺野古の記事が載っていなかった。友人は「今日ほど酷い紙面…

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1735 77年前の12月の朝 NBCがAPの至急報

 今から77年前の1941(昭和16)年12月8日未明(ハワイ時間7日朝)、旧日本軍は米国のハワイ真珠湾を奇襲攻撃した。この朝ラジオで大本営発表を聞いた多くの日本国民は狂喜し、大国を相手にした戦争に勝てると信じた。一方、攻撃された米国では、どのように報道されたのだろう。AP(米国の通信社)の社史『ブレーキングニュース』(緊急速報の意)には、それが詳しく紹介されている。以下はその要約。  ニューヨークのロックフェラー・センターにあるNBC(米国の3大ネットワーク上の1つ)のオフィスでは、日曜ラジオ放送のエディターがAPのテレタイプの緊急重大ニュースを告げるベル音に注意喚起された。APのフラッシュ(至急報)に目を通した後、ボタンを押して階上のコントロールルームにネットワークの番組を中断するよう知らせた。午後2時28分、それまで1度もラジオで話したことがない放送エディターがマイクに向かって1500万人のリスナーに向けAPの至急報を読み上げた。それは「日本軍真珠湾攻撃、ホワイトハウス発表」という簡略なものだった。  こうして太平洋戦争の口火が切られた。真珠湾攻撃を立案、指揮した山本五十六が予想した通り、序盤戦優勢に進んだ戦争はミッドウェー海戦で日本海軍が壊滅的打撃を受けて以降、なだれを打つようにほとんどの戦線で敗退を余儀なくされる。そして広島、長崎へ原爆が投下される。  APの社史は米国の原爆投下について、短く記している。「そして、米軍のB-29爆撃機が原爆を投下し、8月6日広島を、そし…

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1733 カタカナ交じりの山手線新駅名 難しい言葉の選択

 JR山手線田町~品川間にできる新しい駅名が「高輪ゲートウェイ」と決まった。公募した新駅名では130位(36票)だったというニュースを見て、国鉄が民営化された当時、愛称として選ばれた「E電」のことを思い出してしまった。駅名だからすたれることはないだろうが、私自身は好きな名前ではない。 「E電」は、1987年に国鉄が民営化しJRが誕生した際、それまでの「国電」に代わる愛称が公募された際に選ばれた。といっても、今回と同様、上位を占めていたわけではなく、20位(5万9642通中390通)だったという。上位の「民電」「首都電」「東鉄」を押しのけて、選考委員会はこの名前を選んだ。しかし、利用者は意外にも民営化された象徴である「JR」を使い、「E電」は定着しなかった。「E」は野球のエラーをいうように、イメージが悪い上に「イーデン」という発音にも、違和感を持った人が多かったようだ。  今度の新駅名の公募では「高輪」「芝浦」「芝浜」が上位を占めたそうだ。だが、最終的に選ばれたのは、漢字とカタカナの混じった名前だった。選考の理由は「新しい街は江戸時代から多くの人が行き交い、にぎわっていた場所で新駅名は今後ビジネスの拠点としての発展に寄与する」ということらしい。 「ゲートウェイ」を辞書で引くと、「異種のコンピューターやネットワークの間に立って整合性をとる中継システム。LANとWANをつなぐシステムを指すことが多い」(百科事典マイペディア)、「プロトコルの異なるシステムやネットワークを接続し、データを…

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1730 10年で1000万部減の新聞 使命を忘れたら衰退の一途

 日本の新聞の発行部数は約4213万部(2017年・日本新聞協会)で、この10年で1000万部減ってしまった。驚くべき数字である。毎年100万部ずつ減少しているわけだ。この状態だと2018年の現在は4100万部台で、4000万部を割るのも時間の問題かもしれない。かつて第4の権力といわれた新聞はどこに行くのだろうか。  日本の新聞は宅配という独特の配達制度に支えられ、部数を維持してきた。日本新聞協会によると、2007年の1世帯当たり(約5171万世帯)の新聞購読部数は1・01部だった。だが、翌2008年に0・98部に下がり、2017年は0・75部まで落ち込んでいる。こうした数字を見ると、新聞の衰退が激しいことが分かる。同じ世界で働いたひとりとして、寂しくむなしい限りだ。  インターネットという「恐竜」のようなメディアの爆発的普及によって若者の新聞離れが顕著になり、歯止めが利かない。つい最近、産経新聞が2020年10月をめどに販売網を首都圏と関西圏に限定・縮小する方針が明らかになった。東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬の首都圏と静岡、関西は大阪、京都、兵庫、奈良、和歌山だけの販売になるという。実質的に産経は現在、この地域以外では発行部数は少ないだろうから、影響は少ないかもしれない。だが、これも新聞衰退の一つの現象といっていい。  ことし7月、驚くべき調査結果が発表になった。イギリスのオックスフォード大学に設置されているロイター・ジャーナリズム研究所が毎年実施している世界各国の…

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1726 人間に付きまとう魔物 ゴーン氏と富について

 日産自動車のカルロス・ゴーン氏が東京地検特捜部に逮捕されたことだけでなく、逮捕の理由を聞いて驚いた人は多いだろう。5年間に100億近い報酬を得ながら、その半分しかもらっていないと、有価証券報告書に申告していたというのだ。私はこのニュースを見て「守銭奴」という言葉を思い浮かべた。ゴーン氏にこの言葉が当てはまるかどうかは分からない。だが、世の中は金持ちほど、金に汚いという現実があることを改めて感じている。  フランスの17世紀の劇作家、モリエールに『守銭奴』(岩波文庫)という作品がある。金を貯めることに執念を持つアルパゴンという男が、金のために娘の幸福を奪い、息子との間で息子の恋人を奪い合う。高利貸しを風刺し金銭欲にとらわれた人間の醜悪な姿を描いた喜劇である。  普通の暮らしをしている私には理解不能だが、人間は金という魔物に付きまとわれると、心まで変わってしまうようだ。そして、いつしか「守銭奴」(金銭欲の強い人間)へと堕ちてしまうのだ。  手元にあるベーコンの『随想録』(岩波文庫)に「富について」(34)というエッセーがある。この中でベーコンは、富について「自慢するような富ではなく、正当に得て、まじめに使い、こころよく分け与え、満ち足りた心で残せるような富を求めるのがよい」と書いている。また富の蓄え方について「蓄える道はいろいろあるが、その大部分は不潔である」とも述べ、「一文惜しみはしないがよい。富には翼があって、時おりひとりでに飛び去るし、また時にはもっと多くをもってくるために飛…

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1724 59歳まで投げ抜いた伝説の投手 その名はサチェル・ペイジ 

 日本ハムから大リーグ(MLB)のエンゼルスに移籍し、投手と打者の「二刀流」で活躍した大谷翔平の新人王受賞が決まった。何よりのことである。大谷と比較されるのは、大リーグ史上最もよく知られているベーブルースだろう。ルースは、二刀流から出発し、打者に専念して大打者の道を歩んだ。ルースほど有名ではないが、大リーグで59歳までプレーした大投手がいたことを知る人はそう多くはないかもしれない。サチェル・ペイジという伝説の投手である。将来、大谷もペイジのように伝説の選手になるだろうか。  サチェル・ペイジは1982年6月8日に亡くなった。その時の死亡記事(AP・SW=共同)が佐山和夫『史上最高の投手はだれか』(潮出版)という本に紹介されている。記事によると、サチェル・ペイジは、ミズーリ州カンザスシティの病院で心臓病のため亡くなった。推定年齢は75歳。主な活躍の舞台は1920~40年代の黒人リーグで、ほとんど記録は残っていない。だが、練習試合で対戦したことがある火の玉投手といわれたMLBのボブ・フェラー(通算266勝)は「自分の速球がチェンジアップ(ストレートと同じフォームから投げるが、速球よりも格段に低速なボール)に見えるほどペイジの球は速かった」といい、ペイジの投球を見た人のほとんどが「自分が見た中で最も素晴らしい投手」と語っている。  黒人リーグで活躍したペイジはジャッキー・ロビンソンが有色人種の大リーグ入りを切り開いたことで1948年、42歳の時に初めて大リーグのインディアンスに入った。最後の…

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1723 職人気質が懐かしい どこへ行った厳格な品質管理

 以前のことだが、途上国を歩いていて、私を日本人と思ったのか、現地の人からいきなり「ジャパン、ナンバーワン」と、声を掛けられたことがある。それは日本から輸出する製品についての称賛の言葉だった。かつて、とは書きたくないが、日本製品はほかの国の製品と比較して間違いなく優れていた時期があったのだと思う。だが、昨今はどうなのだろうか。日本製品は優秀という言葉は過去になりつつある事象が多すぎる。  最近のニュースで大きく取り上げられたKYBの免振データ改ざん、スバルのデータ書き換えと、一流企業による不正が後を絶たない。記憶する限りでも、スズキの燃費詐称、神戸製鋼のデータ改ざん、タカタのエアバックリコール、日産自動車、三菱自動車の燃費データ偽装、東芝の利益水増しなど不適切会計、東洋ゴムの免震パネル・防振ゴムなど試験データ偽装等々、不正のオンパレードであり、これらの企業は、CSR(企業の社会的責任)など馬耳東風といった印象だ。バレなければいいと思う風潮が蔓延しているとしか思えない。  企業が利潤を追求するのは当然なことだが、そのあまり、高い品質を求めることが二の次になっってしまったら、企業の存在価値はないといっていい。私の周囲でも最近、優秀なはずの企業製品で残念なことがあった。それは日本が世界に誇る製品ともいえるウォシュレットである。人を感知すると、自動的にふたが開く比較的高価な製品だが、設置して5年少しで故障してしまった。  修理を依頼すると、やってきた業者は問題の製品を点検し、修理費用は4…

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1719 痛ましい駅伝選手 這ってでものタスキリレー

 10月21日に開催された全日本実業団対抗女子駅伝の予選会で、中継地点目前で倒れた岩谷産業の2区、飯田怜が約200~300メートルを這いながら進んだ。飯田は右足を骨折し、両ひざからは血が流れていた。繰り返しこのシーンがテレビで放映されている。痛ましい限りである。このところスポーツ界をめぐる暗い話題が尽きない。スポーツとは何なんだろうと思う。  かつて早稲田大学で瀬古俊彦という名ランナーを育てた中村清監督は、厳しい指導で知られた。自身も早大で箱根駅伝に出場した作家の黒木亮は『冬の喝采』(講談社文庫)という自伝的小説の中で、中村の激しさを書いている。中継地点近くになってラストスパートしている主人公の金山(黒木の本名)に対し、「根性あるのか!」「死んでしまえ!」「おらおらおらーっ!」と罵詈雑言を吐く。もちろん選手の力を引き出そうとする思いから出た言葉である。  卒業する金山らに対しての中村のあいさつで、レースでの罵詈雑言は愛の鞭だったことが分かる。「競走部を強くし、諸君を臙脂(同大学のスクールカラー)のユニフォームに恥じない選手のためにするためではあったが、中村の至らなさで、ご迷惑をかけたかもわかりません。しかし、『若い頃に流さなかなった汗は、年老いてから涙となって流れる』とも申します……」  現代では中村の指導法はパワハラと受け止められるかもしれない。体操女子選手のパワハラ問題で、コーチから体罰を受けた選手が「コーチを信頼している。引き続き指導を受けたい」と記者会見で話しているのを見…

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1717 AIが記者になる日 会見場の異様な人間マシン

 テレビで記者会見のニュースや中継を見ながら、違和感を持つことが続いている。会見で質問をする側の記者たちが相手の話をパソコンに記録しようと、一心にキーボードを打っている。あれじゃあ相手が言ったことを記録するだけで、ろくな質問ができないだろうなと思ってしまう。記録するだけなら、そのうちAI(人工知能)に取って代わられるのではないか。こうした光景は今や日常茶飯事らしい。  さすがに報道機関の現場でもこうした「パソコン記者」の姿に、私と同様違和感を持つベテランもいるようだ。だが、編集幹部は見て見ぬふりをしているから、この現状は変わりそうにないと、知り合いが教えてくれた。 「政治家の誰彼がああ言ったこう言ったという表面的な事実を並べただけの報道は、政治報道の名に値しない。ハラに一物も二物もある政治家の言葉の裏に立ち入って真意をあぶりださなければ、報道することの意味はない。市民が期待するのは、もっと政治の流れの本質に迫るニュースだ」  これは『ジャーナリズムよ メディア批評の15年』(新聞通信調査会)という本の中で、元共同通信記者の藤田博司氏(故人)が政治報道について批判を加えた一節だ。この指摘は正鵠を得ている。例えば、安倍首相は現在、夫人とともにヨーロッパ歴訪中である。しかし、得意のはずの外交で、これまでほとんど成果がないことは言うまでもない。北方領土返還、北朝鮮による邦人拉致という外交の2大懸案事項は全く進展がない。ただ、湯水のごとく援助という名目で税金をばらまくだけである。同行記者は…

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1713 寛容よりも道義 異論のススメへの異論

 朝日新聞に佐伯啓思という京大名誉教授が「異論のススメ」という評論を載せている。2017年11月、朝日の当時の木村伊量社長が東電福島第一原発事故をめぐる「吉田調書」の記事や慰安婦報道の取り消しなど、一連の事態の責任を取って辞任した後に「あの朝日が」と思うほど、突然起用された保守派の論客である。10月5日付朝刊に載った佐伯氏の評論を読んで、かつてシベリアに抑留されて亡くなった山本幡男さんの遺書を思い出した。佐伯評論の内容は、遺書とは対極にあると思った。  佐伯氏の今回の評論は「『新潮45』問題と休刊 せめて論議の場は寛容に」と題し、先日休刊(事実上の廃刊)になった月刊誌「新潮45」問題を論じている。同誌の常連筆者だった佐伯氏はこの数年、論壇が異常な状態になっていると思うと前置きし、左右の応酬、それも情緒的な攻撃にも似た状態にSNSが加わって世論に働きかける状態になっていと論壇の現状を分析する。休刊の発端になった自民党の杉田水脈衆院議員のLGBT問題の原稿については「配慮に欠け、杉田擁護の論考の一部にも問題があったのは事実だ」と書いたうえで、「その後の雑誌に対するバッシングは異常で、杉田氏を擁護する者は差別主義者のように見なされるのは問題だ」としている。  この後、杉田議員の原稿は3つの重要な論点(①生産性について②結婚や家族とは何か③LGBTは個人の嗜好か社会的制度や価値の問題か)が含まれていたにも関わらず、賛否両論とも基本的問題に向き合うことなく差別か否かが独り歩きしたと論じている。さ…

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1711 オプジーボと先輩からのメール 本庶佑さんのノーベル賞に思う

 職場の先輩Yさんが肺がんで亡くなったのは2017年3月のことだった。闘病中のYさんから、当時としてはあまり聞きなれない「オプジーボ」という薬を使っているとメールをもらったことがある。がん患者には光明ともいえる薬である。この薬の開発につながる基礎研究をした京都大特別教授の本庶佑(ほんじょ・たすく)さん(76)が2018年のノーベル医学・生理学賞を受賞することが決まったというニュースを見て、Yさんからのメールを読み直した。  本庶さんを中心とする京大の研究グループは1991年、免疫を抑制するタンパク質「PD-1」を発見、このPD-1が免疫反応のブレーキ役に相当し、ブレーキを外せば免疫力が高まってがん治療に応用できるというメカニズムを確立した。これが2014年9月、小野薬品工業(大阪市)が発売したがんの免疫治療薬「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)の開発へとつながった。本庶さんの研究は、「20世紀の偉大な発見」といわれる抗生物質「ペニシリン」(1928年、英国のA・フレミングが青カビから発見)に匹敵するという評価もある。  Yさんからのメールは2016年4月6日付で、それ以前に「オプジーボ」を使い始めたことは電話で聞いていた。当時、私はこの薬についてほとんど知識はなかった。Yさんからは肺がん治療に有効なこと、保険が適用されないため3000万単位の費用がかかること、ただYさんは大学病院で治療を受けていたため研究用として扱われ費用はそうかからない―などを知らされた。オプジーボによる治療は数クール…

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1709 ニュースに見る現代社会 貴乃花・新潮45・伊方原発訴訟

 朝刊を開いて、載っているニュースについて考えることが日課になっている人は少なくないだろう。私もその一人である。けさは3つのニュースが目についた。大相撲の貴乃花親方の退職届、雑誌「新潮45」の休刊、そして四国電力伊方原発の運転認める広島高裁の判断―である。それぞれに考える材料を提供してくれるニュースに違いない。  貴乃花親方は平成の大横綱といわれ、兄の若乃花とともに若貴兄弟として大相撲の人気興隆に大きく寄与した。優勝回数22回は白鵬(41)、大鵬(32)、千代の富士(31)、朝青龍(25)、北の湖(24)に次いで6番目になる。その貴乃花は弟子の貴ノ岩が横綱日馬富士(引退)に暴行された事件後、相撲協会と対立し、ついに相撲協会から姿を消すことになった。これまでの経緯を見ていると、「たった一人の反乱、あるいは一人芝居・相撲」「孤立無援」という言葉通りの孤独な闘いをし、敗れ去ったという印象だ。相撲ではとてもかなわなかった親方衆が、束になって我が道を行く元大横綱を土俵外に押し出したと見ることができる。たった一人の反乱では、組織と闘うのは困難であることを印象付けた。それにしても、この騒動の背景には何があるのだろう。  自民党の杉田水脈という安倍首相お気に入りの衆院議員が寄稿した「『LGBT』(性的少数者)カップルは生産性がない」とする寄稿(8月号)が差別的と批判された後、「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」特集を10月号に載せた「新潮45」が、この号を限りに休刊すると、新潮社が発表した。事実上の…

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1703 北海道大地震の体験 知人のブログから

 北海道に住む知人夫妻が、ブログに北海道胆振東部地震の体験記を書いている。自然災害が多発する日本列島に住む私たちに貴重な情報だ。以下に核心部分を紹介する。  オール電化生活の高齢者住宅に住む私達は、卓上コンロのガスボンベを求めて近隣のスーパーへ。全道路の信号機が停止しているので、慎重な運転で自動車を走行。交差点では、車を誘導する地元の警察官が立ち、あるいは、ドライバー同士の慎重な判断で、譲り合いながら車を進めます。まずは地元のセイコーマートへ。セコマでは、発電機を使いレジ処理を行っていました。水とガスボンベは売り切れだったので、ペットボトルのお茶を購入。車内の電源で携帯に充電しながら走行し、近隣のスーパーへ。  スーパー到着時には、すでに入店を待つ長い列が。時折、大粒の雨が降る中、待つこと2時間。待っている間、足が痛くて立っているのが苦痛と訴えるおばあちゃん。一方、「長く生きてきたけどこんなことは初めて。今までが幸運だったから、これまでの生活に感謝しなきゃね。我慢して待つしかないよ。がまん、がまん」とつぶやくおばあちゃん。館内は、停電で真っ暗。停電のためレジが使用不可。店員さんが、懐中電灯を持参して、お客様ひとりひとりに付き添い、購入したい品物のある場所へ案内していました。さらに、メモ帳に購入する品物の値段を書き入れながら、選んだ品物を買い物かごへ入れて、レジコーナへ。精算担当の方が、電卓で手計算しレシートを提出。「お釣りが不足しているので、できるだけ小銭でお願いします」と店員さん。別…

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