1163 野球の神様の遺言 問われるトップの力量

画像


打撃の神様と呼ばれたプロ野球の強打者で、巨人の監督として9年連続日本一(V9)という偉業を成し遂げた川上哲治さんが老衰で亡くなった。93歳だったから、大往生だったといえるだろう。昨夜の日本シリーズ楽天―巨人戦前には、東京ドームで川上さんの死を悼んで黙とうがささげられた。日本の球史に残る人だった。以前、川上さんが書いた「遺言」という本を引っ張り出して、読み返してみた。一芸に秀でた人は、物の見方も優れていることをこの本で再確認した。

川上さんは、名選手として現役時代から野球界の至宝といわれたが、V9を達成した名監督としても名を残した。この本の中での監督論も的確だ。「組織の盛衰はトップの力で99%決まるというが、プロ野球の世界でもまさにその通り」と書き、監督の力量次第でチームの運命は変わるというのである。昨今、みずほ銀行の暴力団への融資問題や阪神阪急ホテルズグループの食材偽装問題などトップの姿勢が問われるニュースが続出しているが、頭を下げる一方で「傲慢」ぶりをのぞかせた記者会見の映像を見ていて、川上さんのこの言葉の重さを感じた。

この本の中で、川上さんは何人かの後輩の野球選手のことを書いている。

星野仙一(現在の楽天監督で、当時中日監督) 選手を殴ったり、怒鳴ったり、気性の激しさで鳴るが、ここ数年でだいぶ変わった。星野の場合はかっとなる激情家としての性格が根底にあるが、わたしの見聞では人一倍選手への愛情が強く、かわいがる分、反省の点火とさせるべく殴ったり怒鳴ったりしてしまうところがあった。しかし監督歴もすでに10年。年々丸くなってきたようだ。指揮官としての成長である。チームに関する最終責任はすべて監督にあるのだから、選手の責任を自分に帰して、敗因や失敗の原因を分析し究明していって、またしゃにむに選手を訓練して行けばいい。

野村克也 60代後半に入って、いまや功なり名を遂げた阪神の野村監督は根気をなくしてしまったのか。選手時代は8年連続のホームラン王、6年連続の打点王、3冠王にも輝いている。監督になってからはヤクルトを4回優勝させて、日本シリーズにも3度勝っている。選手を育て、チームを仕上げ、勝つことの経験豊富な人なのだが、阪神に行ってからはどこか消極的な様子がうかがえるのが気がかりである。(野村が監督を務めた1999年から2001年までの3年間、阪神はセリーグの最下位だった)

王貞治 同じ失敗をしない。裏表がない品格を持つ。指導者のひとりとして、野球を人間形成への一つの道―野球道―としてとらえ、技術面以上に人間性、人間の精神性、心持のありようを重視したが、王はそれを見事に具現して、指導者としても大を成してきた。

長嶋茂雄 現役時代から60代半ばになった監督の今も、長嶋の特殊性は少しも変わっていない。1つはその「情動性」だ。その場その場でなすべきことに没入して、心と身体とが一元化された状態になる。天才型といわれるが非合理なバッテングも独特な感性、情動性の強さを基にした集中力のなせる技だ。2つ目は計算抜きの行動、3つ目は60歳を超えても、プロの指揮官であっても、堂々と「奇跡」(メイクドラマ)を唱えられるという特殊性だ。

イチロー もちろん大リーグでも成功するだろう。タイミングの取り方は日本球界ではナンバーワン。下半身でしっかり踏み止め、腰を回転させて打つ―バッテングの基本がきちんとできているんで、どんな球に対しても振り切れる。足もあるし肩もいい。身体のスピードでは負けない。筋力はしっかりついていてバネがある。バッテング一筋で立ち向かえばメジャーのスピード、例えば150キロの球速、球質の重量感にも対応していけるはずだ。

金田正一 巨人時代の金田は猛練習をした。巨人はよく練習したが、金田の練習量はそれ以上でONが感心したぐらいだから、他の選手はついていけなかった。あれだけの練習をするからこそ大投手になれたのだ。

松井秀喜 練習量は相当なものだろう。剣道でいえば太刀行きだが、彼のバットスイングのスピードは並ではない。身体を鍛え、朝、晩、いつも相当に振り込んでいない限り、あれほどのヘッドの速さというものを保てるはずがない。4番バッターにはひたむきさ、真面目さ、一生懸命さが必要だが、そうした3要素も松井はみんな持っている。人との交際も清潔でボランティア活動にも自然体でやっている。

清原和博 若い時分に西武で甘やかされて育ったせいか、もともとの性分なのか、やる気はあっても長続きしない。素質に恵まれ、高い給料をもらいながら、それ相応の働きを期待されながら、いいプレーをコンスタントに発揮できない。10年たっても15年たっても、タイトルともなにひとつ無縁だ。(新人王と打点王を獲っているが)毎年のようになにかしら挫折する。その繰り返しだ。

落合博満 3冠王を3度獲ったが、その才能と努力の陰にバッテングの技術はどういうものかということがよく分かっている頭の良さというものがある。だから毎日の練習にも独自の工夫があったのだろう。やがてコーチなり監督になり、指導者として活躍していくはずだが、そのキャリアと豊富な体験からバッテングに関してナンバーワンの指導者になろう。

この本が出たのは2001年だった。この本の中で川上さんは「だらだら試合は困りもの」という項目で、試合時間が年々長くなっていることにも苦言を呈している。昨夜の日本シリーズは4時間を超える長い試合になった。投手のコントロールが悪く、四球が多かったことも背景にあるが、最近のプロ野球の試合時間は長すぎる。だからか、テレビ(特に民放)の放送も少なく、放送されても試合途中で切れてしまうことが珍しくない。

高校野球は選手の動きがきびきびしていて、試合時間は短い。しかしプロ野球になると、倍以上が普通になっている。打撃の向上で投手の分業化が進み、投手交代が増え、サインが複雑化し、投手のインターバルも長くなる、打者の方は持球主義となり、サインの確認も多い、投球の合間にバッターボックスを外す打者が多い…など、さまざまな要因が複合した結果、現在の長時間スタイルの野球になったのだろう。そ牛た背景を踏まえた上でも「プレーに締まりがなく、だらだらとした試合運びはほかのスポーツに比べて、野球競技が戒めとしなければならない」という川上さんの指摘は正しい。だから、サッカーの方に人気が移ってしまったのかもしれない。

写真 今朝の調整池。霧に包まれていた。

"1163 野球の神様の遺言 問われるトップの力量" へのコメントを書く

お名前:
メールアドレス:
ホームページアドレス:
コメント: