1914 核の脅威依然減らず 安らかに眠ることができない時代

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「安らかに眠るに核は多すぎる」 小栗和歌子さん作のこの川柳は、1975年9月号の「川柳 瓦版」に掲載されたものだ。「安らかに眠る」とは、広島の原爆慰霊碑(1952年建立)の碑文「安らかに眠ってください。過ちは繰り返しませぬから」(雑賀忠義広島大学教授が揮毫)にあり、よく知られている言葉だ。広島に続き、長崎に原爆が投下されて75年。この川柳から45年を経ても世界の核廃絶は一向に進まない。

 6日の原爆の日。慰霊式典での松井広島市長の平和宣言と安倍首相のあいさつは、今年もかみ合わなかった。市長は平和宣言の中で国連の「核兵器不拡散条約」(NPT、1970年発効)と核兵器禁止条約(2017年に成立)について触れ、共に核兵器廃絶に不可欠な条約であり、日本政府には核保有国と非核保有国の橋渡し役をしっかり果たすためにも核兵器禁止条約への署名・批准を求める被爆者の思いを受け止めて、この条約の締約国となるよう訴えた。これに対し安倍首相は、「立場の異なる国々の橋渡し役に努め、各国の対話や行動を粘り強く促し、核兵器のない世界実現に向けた国際社会の取り組みをリードしていく」と述べたものの、核兵器禁止条約には全く触れなかった。

 この条約は「核兵器の使用によって引き起こされる壊滅的な人道上の結末を深く懸念し、そのような兵器全廃の重大な必要性を認識し、廃絶こそがいかなる状況においても核兵器が二度と使われないことを保証する唯一の方法である」とし、開発から使用まで全面的に禁止することを目的にしている。2017年7月7日、122カ国・地域の賛成多数により採択された。しかし、全核保有国と米国の核の傘の下にあるカナダ、ドイツなどNATO加盟国、親米で二国間軍事同盟を結ぶオーストラリア、韓国などが不参加。唯一の被爆国である日本も米国追従外交から抜け出せず、批准していない。この条約発効には50か国の批准が必要だが、これまでの批准国は43カ国。

 現在、核兵器保有を公表しているのは米国、ロシア、英国、フランス、中国(以上はNPT批准国)、インド、パキスタン、北朝鮮(以上はNPT未批准国)の8カ国で、未公表のイスラエル(未批准)も保有が確実とみられている。さらにイラン、シリア、ミャンマーについても核保有が疑われている。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計では、冷戦時代に世界で7万基保有されていたといわれる核弾頭は、2019年1月時点で1万3865発(90%以上を米露が保有)まで減ったといわれる。数字的には激減したと見えるが、1発1発の破壊力は格段に増しており、核の脅威は冷戦時代と変わりない。というより、自国ファストの指導者が目立つ時代だけに、脅威は増しているといっていい。「冷戦終結の象徴」ともいわれた米国とロシア間の中距離核戦力(INF=Intermediate-Range Nuclear Forces)全廃条約が昨年8月に失効したことも、軍拡競争が再燃するのではないかという懸念材料になっている。

 日本政府は核兵器禁止条約に参加しない立場について、「北朝鮮の核・ミサイル開発の脅威があり、通常兵器だけでは抑止できず、日米同盟(安保条約)の下、米国の核の抑止力を維持する必要がある」(外交青書)と説明している(米国に巨額を払って導入を計画した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」は杜撰さが露呈、撤回するというドタバタ劇を見ても、この説明に納得できない)。そのうえで、このところ国民に向け「橋渡し」という役割の重要性をPRしているのだ。しかし政府がどれほどこの役割を果たしているのか全く見えてこないのが現状だから、口先ばかりという批判が絶えない。これに対し広島、長崎の両市長は口をそろえて核兵器禁止条約への参加を求め、米国の核の傘依存政策見直しを求めており、政府の立場とは異なる。それは沖縄・名護の米軍新基地建設に沖縄県が反対している問題とよく似ている。このように昨今、国民の意思と政府の政策の隔たりが目立つことが多すぎると思うのは、的外れではないだろう。

 原爆をおとした天へ頭垂れて祈る人たち 松尾あつゆき(「句集 原爆句抄」より) きょう9日は、長崎原爆の日である。この日になると、あの「焼き場に立つ少年」の写真を思い浮かべる。少年は戦後、どのような生活を送ったのだろうか。少年の原爆への怒りは私の想像を超えたものだったに違いない。

 追記 9日の長崎平和祈念式典の平和宣言で、田上長崎市長は「日本政府と国会議員に訴えます。核兵器の怖さを体験した国として、一日も早く核兵器禁止条の署名・批准を実現するとともに、北東アジア非核兵器地帯の構築を検討してください。『戦争をしない』という決意を込めた日本国憲法の平和の理念を永久に堅持してください」と訴えた。しかし、安倍首相はここでもこの条約については全く触れなかった。

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