1842 地球は悲劇と不幸を満載した星 権力悪と戦った長沼節夫さん逝く

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 私は30歳のころ、東京の新宿署を拠点に警察を担当する「4方面クラブ」に所属していた。いわゆるサツ回り記者である。地方の支社支局を経ているとはいえ、駆け出し記者だった。ほかの社も、私と同様に地方を経験して社会部に配置された記者が多かった。そこに、異彩を放つ記者がやってきた。時事通信の長沼節夫さんだ。海外特派員からサツ回りに配属された長沼さんは、私たちの兄貴分になった。先月、長沼さんが亡くなった。77歳。権力の不正に立ち向かったジャーナリストがまた一人いなくなった。

 サツ回りは、担当する地区で起きた事件、事故を取材して記事にする記者で、私が所属した4方面は新宿、中野、杉並3区にある8つの警察署がカバー範囲。これ以外にもいわゆる街ダネ(街で話題になっている出来事や催しもの)の取材もしたが、東京地検特捜部が捜査を開始したロッキード事件の渦中の人物である右翼の児玉誉士夫宅(世田谷区等々力)を、交代で24時間張り込みするのが大きな役割だった。

 長沼さんはそうしたロッキード事件の最中にふらり(そんな感じだった)と、新宿署の記者クラブに顔を出した。長身で理知的な顔。彼はすぐに私たちと打ち解け、昼夜を問わず行動を共にした。私たちは兄貴分として長沼さんを慕った。サツ回りとしてはわずか1年ほどの付き合いだったが、その後折に触れて一緒に酒を飲んだ。当時のメンバーが集まる「4方面会」という名の飲み会が長く続いたのも長沼さんの人間的魅力があったからこそだった。以前のブログにも書いたが、新宿署近くに「おのぶ」という、私たちの行きつけのバーがあった。ママはその後シアトルに住む息子と生活するためにバーをやめ、アメリカに渡った。長沼さんは送別会の幹事を務め、2016年にママが里帰りした際、長沼さんと私は何十年ぶりに再会し、旧交を温めた。

 手元に『サハラに死す』(ヤマケイ文庫)という本がある。時事通信から1975年に発行され、その後講談社文庫になり、山と渓谷社から2013年に再発行された。ラクダに乗ってサハラ砂漠の横断旅行に挑戦中、22歳で遭難死(1975年5月29日)した上温湯(かみおんゆ)隆さんの日記、メモ、手紙を基に作家の長尾三郎さんが構成した本だ。この中に、上温湯青年が1度目の挑戦途中に失敗、2度目の挑戦資金を稼ぐために長沼さんが支局長を務めるナイジェリアのラゴス支局に住み込んで働いたことも記されている。

「長沼氏は、大変に人がよく、人間性も、すべての方面に関する知識もすばらしい人であり、話をよく聞いてくれ、納得のいく説明を加えてくれる。話術も上手で、僕は知らず知らずのうちに多くのことを教わっている」と、上温湯青年は、当時の長沼さんのことを書いている。まさにこの通りの人だった。熊沢京次郎のペンネームで、日中戦争に投入された旧北支方面軍第12軍第59師団の誕生から敗戦までの歴史を描いたノンフィクション『天皇の軍隊』(現代評論社・その後本名で朝日文庫になる)の著者でもあり、日本の近代史についても造詣が深かった。

 記者としての長沼さんは海外特派員~サツ回りの後、国鉄、郵政省、外務省、国会を担当し、第一線で取材を続けた。中でも国会担当は長かった。韓国の金大中元大統領とも親交があった。だが、時事社内で長沼さんは不遇だった。人権擁護を訴える少数派の労働組合(時事通信労働委員会)に所属していたことから、会社側から徹底した差別を受け、「48歳で取材現場の社会部から外されて内勤の整理部に移された後のほとんどの期間、年長の長沼が唯1人ヒラで他の全員が部長または次長職という異常な職場だった。身分と給料は一体化していたため、長沼の給料が最低レベルであったことは言うまでもない」(『生涯一記者 堂々たる哉 追想・中村克』/中村克追想文集刊行編集委員会発行より)という状況だった。

 時事退社後、長沼さんはフリーのジャーナリストとして活動し、腐敗した権力に対し厳しい目を向け続けた。私の手元には長沼さんから届いた何通かのはがきがある。その中に「地球は悲劇と不幸を満載した星かもしれません」という一節がある。その悲劇と不幸を少しでも減らそうという思いで長沼さんは生き、戦ってきたのではないだろうか。アフガンで灌漑事業などの人道支援に取り組んだ中村哲さんが銃撃され、死亡する悲劇が起きた。私は長沼さんの憂い顔を思い浮かべた。

 冬の雷反骨記者の怒り哉 遊歩

 長沼節夫さんは急性骨髄性白血病のため11月6日、東京・虎の門病院で亡くなりました。ご冥福を祈ります。

 追記 2008年12月のブログで、おのぶのママと再会した者はいないと書きましたが、今回のブログの通り、私と長沼さんが2016年に再会しています。ただ、前回のブログは手直しはしておりません。

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