小径を行く

アクセスカウンタ

zoom RSS 1714 2つの蜘蛛の糸 秋田の「命のまもりびと」

<<   作成日時 : 2018/10/09 20:53   >>

トラックバック 0 / コメント 0

画像
 「私たちの活動は、(死に向かって)落ちそうになる人を受け止めるサーカスの網のようなものです。生きていれば楽しいことがあります。相談者には生きることに勇気と希望を持ってもらいたいのです」。中村智志著『命のまもりびと』(新潮文庫)を読んだ。秋田県で自営業者の自殺を踏みとどまらせようと相談を受け続ける「NPO蜘蛛の糸」の佐藤久男さんの活動の記録である。著者は「自殺は社会問題」という。佐藤さんの活動の記録は、まさに現代の日本社会の断面を映し出している。

 日本の自殺者数が3万人を超えたのは1998年だった。以後東日本大震災があった2011年まで14年連続して3万人を超えていた。ようやく2012年に15年ぶりに3万人を下回った。こんな時代、自殺率全国一という不名誉な記録を続けたのは秋田県だった。その秋田県で、たった1人で自営業者の自殺防止に立ち上がったのが佐藤さんだった。

 佐藤さんは秋田県庁職員、不動産鑑定会社を経て34歳で独立、経営した不動産会社は最盛期には年商10億円を超えた。だが、銀行の貸し渋りなどによる景気低迷の影響で会社は2000年に倒産、うつ病になって自殺を考えるほどに追い込まれる。そんな体験を持つ佐藤さんは、2002年、蜘蛛の糸という中小企業経営者の自殺防止を目的にしたNPOを創設、事業につまずいて自殺の瀬戸際に立っている人たちの相談に乗り始めた。この本は@佐藤さんのNPO設立に至る半生とNPOの活動A日本の自殺防止対策の実情B東日本大震災後の岩手県での佐藤さんの活動ぶり―から構成されており、じっくりと、死の瀬戸際に立たされた人々の訴えに耳を傾ける姿が克明に描写されている。

 佐藤さんの活動の舞台は基本的に秋田県である。ただ、東日本大震災後、やむにやまれず隣県の岩手まで足を伸ばし、数々のつらい相談を受けている。生きる希望を失った人にどのようにして希望を取り戻させるのか、それは佐藤さんの「傾聴」の姿勢にかぎがあるといっていい。副題に「秋田の自殺を半減させた男」とあるように、幸い秋田県の自殺者は蜘蛛の糸発足10年後にはピーク時の半分近くまで減った。だが、蜘蛛の糸の目標は「秋田県の中小企業経営者とその家族の自殺ゼロ」なのである。

 9年前に佐藤さんに話を聞いたことがある。当然ながら暗い話題だった。にもかかわらず、秋田弁丸出しの佐藤さんの話に心が和んだ。蜘蛛の糸を象徴するのが冒頭の言葉だった。ちなみに芥川龍之介の同名の短編はこんなあらすじだ。  

 お釈迦様はある日、極楽の蓮池を散歩していた。そこで水面に映し出された地獄に落ちた者の中に、カンダッタという大泥棒の男を見つけた。彼は一つだけいいことをした。蜘蛛を助けたのだ。それを思い出したお釈迦様は、蓮池から蜘蛛の糸を下した。カンダッタはそれをつたって地獄を抜け出そうとする。かなり上まで達し、一息ついて下を見ると、大勢の亡者が上ってくる。彼は糸を振るってその者たちを振るい落そうとすると糸はぷつんと切れて、カンダッタは再び地獄へと落ちてしまう。これを見ていたお釈迦様は悲しそうな顔をして、再び極楽をぶらぶらと歩いていく。

 佐藤さんの活動は芥川の短編のお釈迦様と違って、決して相談者を見捨てない。すぐには結果は出ない。だが地道な活動が、深刻な社会問題の解決に寄与していることは間違いない。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
1714 2つの蜘蛛の糸 秋田の「命のまもりびと」 小径を行く /BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる