1108 出会いの瞬間が大切 本間秀夫写真集「純白の貴婦人 オオバナノエンレイソウ」を見る

画像
北海道で生活したことがあり、少し野の花に興味を持つ人なら、「オオバナノエンレイソウ」(大花延齢草とも書く)の存在は知っているだろうと思う。この花の魅力にひき寄せられた川崎在住のフリーフォトグラファー・本間秀夫さんは長年にわたって北海道に通い、4月に「純白の貴婦人 オオバナノエンレイソウ」(ナチュラリー社刊)という写真集を出した。20年来のこの花に寄せる思いが凝縮された写真集は、可憐な花の姿を通じて自然保護の重要さを訴えている。

この花との出会いについて本間さんは次のように書いている。共同通信社札幌支社在籍当時の1993年6月のことだ。釧路市で開催されたラムサール条約締約国会議の関連取材で釧路湿原に行くと、入り口付近に花弁が3枚のシンプルな白い花を一輪見つけた。花の名前も知らないまま、風変わりな花と思い一枚だけシャッターを押した。

帰ってから図鑑で調べると、その白い花は「オオバナノエンレイソウ」という名前で北海道に多い野の花と分かった。翌94年の春、千歳市郊外の林道で、本間さんは小川のほとりに群生するこの花を見つけた。木漏れ日の中でそよそよと揺れる純白の花に胸がときめき、被写体としてこれから付き合っていくのかなと、予感めいたものを感じたのだという。

その予感を大事にして本間さんは東京本社に戻って以降もライフワークとして純白の貴婦人を求めて、北海道に通い続け遅い春を味わう。

いまでは全国的に有名になった北海道・美瑛。その丘の街の四季を美しい写真で世に知らせたのは前田真三だ。前田は風景写真について「出会いの瞬間が大切」という言葉を残している。東京で写真事務所を設立した前田は、日本縦断撮影旅行で富良野と美瑛に入り、その自然に心酔する。その後のことは書く必要がないだろう。いまでは富良野も美瑛も北海道観光の中心的存在になっている。

本間さんは、前田が言うように釧路湿原でのオオバナノエンレイソウとの出会いを大事にして、20年間付き合い続けた。物事に飽きっぽい私には、うらやましい限りの本間さんとオオバナノエンレイソウとの関係だと思う。

この写真集の撮影地は広範に及んでいる。なぜか。背景にはこの写真集の監修者である大原雅・北大教授という植物学者の存在がある。大原教授は「世界のエンレイソウ」という著作もあり、当然北海道の分布にも詳しい。本間さんは大原教授の協力を得て、北海道内の山野に分け入ったのだった。

本間さんによると、この花は北海道では珍しくないにもかかわらず、素人向けの分かりやすい本がなく、個人のホームページでもたくさん取り上げていても誤った部分も少なくないという。この花を愛する本間さんは9種ある仲間の関係などを正しく紹介したいと考えて大原教授の監修を依頼し、図鑑的な要素も含め「記述は確かなものになった」という。本間さんが書いている通り、この写真集はオオバナノエンレイソウに関する図鑑的要素を十分に備えており、この花の魅力を私たちに教えてくれるのだ。

オオバナノエンレイソウは、その寿命が長いといわれる。種子から開花するまで10年かかるが、その後30年は開花を続けるというから、文字通り「延齢草」なのだ。これからも本間さんは北海道の遅い春、大自然に溶け込んでこの花と対話を続けるのだろう。

この写真集は北海道内の主要な書店で販売され、アマゾンでも購入できる。また、「白い恋人」(石屋製菓)とともに北海道を代表する銘菓といわれるマルセイバターサンドを販売する六花亭が中札内村で運営する六花の森の売店にも置かれている。六花の森では5月下旬、この花の開花を見ることができるそうだ。

この記事へのコメント